電気、ガス代の暴騰はプーチンのせいではない
さて、ここで、なぜドイツでエネルギー問題がここまで深刻になってしまったのかということを考えてみたい。プーチンが侵略戦争を始めたせいだという見解は正しくない。ドイツが世界に誇った「エネルギー転換」政策は、実はすでにとうの昔から破綻していた。
ドイツの再エネは、ここ十数年間、莫大な補助が投じられ、空前絶後の増え方だったが、電力需要の安定にはさほど役に立っていない。それにもかかわらずドイツは、原発は2022年、石炭火力はできれば2030年でゼロにし、その分の電気は再エネで補い、2045年にはカーボン・ニュートラルを達成するという意欲的、かつ非現実的な目標に邁進した。
しかし、原発と石炭火力を次々に廃止した結果、起こったのは、ガスの需要の増加だった。しかも、この急激な「脱炭素化」はドイツだけでなく、EU全体で進められていたため、次第にEU全体がガス不足に陥った。つまり、ガスの価格は、ウクライナ危機が起こるずっと前からじわじわと上がり始めていた。
ドイツが励む脱原発、脱石炭、および再エネ拡大というエネルギー転換政策は、物理的にも、経済的にも、安全保障上からも辻褄が合っていない。だからこそ、いくらドイツが宣伝しても、(日本以外に)付いてくる国はなかった。
ブラックアウトを引き起こしかねない
現在、EUでドイツの脱原発に賛同しているのは、オーストリア、ルクセンブルク、スペインなどごくわずかだ。もっとも、人口890万人のオーストリアには豊富な水力があるし、ルクセンブルクは超お金持ちの小国(人口63.5万人)なので、電気は足りなければ輸入すれば済む。
一方、スペインは、ドイツと競うほど再エネ(主に風力)にのめり込んだ結果、補助金の膨張で国庫が逼迫し、補助金をやめたら、今度は風力電気事業が瓦解した。現在、電気の供給は乱れ、電気代は暴騰している。これを見習えというのは無理がある。しかもドイツは昨年の末、すでにガスの逼迫や電気代の急騰が明らかだったにもかかわらず、残っていた原発6基のうちの3基を止めた。どう見ても自滅政策である。
さらに今年の終わりに最後の3基が止まれば、事態はさらに深刻になり、ブラックアウトの危険が指摘されていた。繰り返すが、これらはウクライナの戦争が始まるずっと前からの話である。