正解のない世界で「知的野蛮人」が生き残ってきた

筆者は、長らく「知的バーバリアン(野蛮人)たれ」と訴えてきた。「知的バーバリアン」は「知性」と「野蛮」を総合する「野性」を有する。正解もなく、定石が通じないこの世の中で、「知的バーバリアン」として必要なのは、二項動態(dynamic duality)思考と実践であろう。アナログとデジタル、暗黙知と形式知、安定と変化、アートとサイエンス、理想と現実など一見相反する事象の狭間で思い悩むことがあるかもしれない。対立項を対立項のまま扱って、どちらを棄却したり、予定調和で中途半端に妥協するべきでもない。もっと言えば、対立軸は意図的に作り出していることがあることも見抜かなければならない。本当は、これらは両極のあいだで、グラデーションで緩やかにつながっている。

まずは、ありのままに現実の只中で、先入観なく「感じる」ことだ。考えるのではなく、全身全霊で感じるのだ。そこで生まれる共感を媒介に、忖度なしに徹底的に対話する。共感を基盤とした知的コンバットという二項動態の方法論は、弁証法を超えるものではないだろうか。

野中郁次郎『野性の経営 極限のリーダーシップが未来を変える』(KADOKAWA

矛盾や葛藤、不均衡は、新たな知へと変革(transformation)する契機になる。「あれかこれか」の二元論(dichotomy)ではなく、「あれもこれも」と突き詰めるなかで、ちょうどよいバランスが取れる、突破口となる跳ぶ発想が降りてくる。一度決めたら機動的に実践し、やり抜いてみる。その試行錯誤のなかで変化を察知し、「いま・ここ」で直観し、決定的瞬間を逃さずに柔軟に対応する。

こうして瞬時に局面が変化しても臨機応変な打開策を繰り出し、現実的に試行錯誤しながらも、理想高くより善い方向へ向かおうとする組織や人間が生き残ってきた。「生き抜くための知恵」である「野性」は人間の直観や潜在能力から生まれ、そして生き抜くことにより、人間の「野性」は磨かれるのだ。

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