変わりつつあるものと変わらないもの

寮内ではとにかく大小の事件が頻発する。これは体育会系特有の“上下関係”が大きく影響している。例えば野球部でいえば、先輩が後輩にバットなどを“借りパク”することが少なくないという。また先輩が後輩に指導という名前の「体罰」を行うケースは、今も後を絶たない。

しかし、寮内で選手間でのトラブルを把握するのはかなり難しい。ある強豪野球部のコーチは、「生徒は指導者がいない隙を見てやっていますから、表面化していない問題はたくさんあるはずです」と不安顔だ。いつ問題が露呈して、最悪は出場辞退といったことにつながってもおかしくないのだろう。

そのため近年は上下関係をあえて“逆転”させているチームが出てきている。従来なら1年生がやってきたグラウンド整備などの雑用を最上級生が担うというものだ。

この新方式を採用している野球部の監督は、「上下関係を厳しくしてしまうと、上級生にわがままな心が育ってしまう。それが競技面でも影響するんです」と話している。

近年、運動部寮も変わりつつある。昔は選手たちが「共同で住む場所」だったが、最近は「食事」と「トレーニング」がセットになっているのだ。

食事は監督夫人が手作りしているチームが多かったが、近年は専門業者が栄養管理したメニューを朝・夕に提供しているチームが増えている。今年6月、箱根駅伝での活躍が記憶に新しい創価大駅伝部寮が都内に完成した。カフェのようなオシャレな食堂と広いテラスがあり、最先端のトレーニング機器も充実。低圧低酸素ルームと高圧高酸素ルームまで完備している。いかに「強化」と「回復」ができるのか。寮の質がスカウティングにも大きく影響する時代になっている。

創価大駅伝部の新・白馬寮(同駅伝部HPより)

一方で変わらないものもある。それは“友情”だ。前出の野球部コーチは、「寮生活で一番大きいのは仲間の存在ですよね。同じ夢や目標を持つ仲間と長い時間を過ごすのはすごく貴重な経験になると思います。話す時間が増え、仲間と支え合うことが多い。寮生活を送ることで濃厚な高校3年間になりますよ」と語っている。

ひとり暮らしはプライバシーが守られ、個人の時間が充実するという利点がある。一方、寮生活も窮屈ながら他者との暮らしから得られる点も少なくない。喜びや感動を分かちあうことができて、より一層「ハッピーな気持ち」になることができるのだ。

だからこそ運動部寮内での昨今の“事件”が残念でならない。寮生活では集団心理が働きやすい。例えば「いじめ」は集団心理が悪い方向に働く代表的な事例であり、客観的に考えれば「おかしい」ということでも、集団のなかにいると普通に感じてしまうことがある。

運動部寮の存在がチームにとってマイナスにならないように、学校や監督・コーチは管理の目を行き届かせ、選手たちも常に互いに冷静な判断力を持ち続けることが、チーム力の向上につながるのではないだろうか。

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