ただ、安倍氏の政治家としての評価に関する今の報道を見ていて思うのは、殺害のショックと政治家としての功績は区別して考えるべきだ、ということだ。安倍政治の評価はもう少し時間が経ってからのほうが良いだろうとは思うが、少し参考になる他国の事例などを交えて私の考えを述べたい。

今回のケースは、米国のジョン・F・ケネディ大統領が1963年に暗殺されたときと似た状況だ。ケネディ大統領は若くて格好が良く、ボストンなまりの英語がちょっと可愛くて、ものすごく人気があった。

しかし、大統領としての功績を挙げるとしたら、2つぐらいしか思い浮かばない。1つは、62年のキューバ危機だ。ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設中とわかり、一触即発の事態となったが、最終的に建設を中止させた。もう1つはアポロ計画だ。ソ連に人工衛星(スプートニク)の打ち上げや有人飛行(ガガーリン)の宇宙競争で負けていたから、人類初の月面着陸を成功させようと計画を進めて成し遂げた。

どちらも記憶には残るが、その後に米国経済が強くなったなどの長期的な功績につながった事例は見当たらない。アポロ計画後のNASAは低迷し、今はイーロン・マスクのスペースXにロケットの打ち上げを頼んでいるぐらい弱っている。宇宙船もロシアが開発したソユーズに長年依存していた。

日本一の首相、米国一の大統領はダレ?

私から見て、第2次世界大戦後、最大の功績を残した米国大統領はドナルド・レーガン氏だ(在任期間は81~89年)。米国が老大国になる瀬戸際の80年代、彼は金融、運輸、通信の3分野の規制撤廃を進め、世界を席巻する強い企業群をつくった。90年代以降のサイバー時代に米国経済が花開いた大きな要因は「レーガノミクス」のおかげだ。

確かに、レーガノミクスは痛みを伴う改革だった。規制を撤廃すれば、規制に守られていた既存産業が真っ先につぶれ、大量の失業者が出る。規制撤廃の怖さだ。政治家は次の選挙で負けるのが嫌だから、頭では必要だとわかっても痛みを伴う改革に踏み切れない。日本で今日に至るまで規制撤廃がほとんど進まない理由だ。

レーガン大統領も、在任期間の後半は「双子の赤字」問題などで評判を落とし、石もて追われるがごとく退任した。

レーガノミクスの恩恵を受けたのは、2代後のビル・クリントン元大統領(在任期間は93~2001年)だ。長年の財政赤字が黒字に転換し、盆と正月が一緒にきたみたいな騒ぎだった。レーガノミクスから20年ほど経って、ようやく「米国産業が強くなったのはレーガンさんのおかげだ」とレーガン氏は再評価されるようになった。