自動運転には「車同士の通信が欠かせない」のか
また新聞でもこんな記事が載っていた。
朝日新聞の天声人語には「もっと進んだ世の中なら、どうなっていただろうと考えてみる。例えば未来の自動車として想定されるのは人の手を必要としない完全自動運転で、それぞれの車が高速通信でつながっている。車同士で会話しながら、円滑に走行する仕組みである。その会話が途絶え、玉突き事故となるような事態は起きないだろうか」(7月4日朝刊)と警告を鳴らした。
日本経済新聞の編集委員は「自動運転にはクルマとクルマ、あるいは道路などインフラとの超高速通信が不可欠だ。……通信が人命を預かるという、単なるネットの利用とは別次元の役割を担うことになる」(7月6日電子版)と指摘した。
いずれの記事も、「車と車」や「車とインフラ」との通信が自動運転には欠かせないと指摘している。たしかに、自動運転になると周辺の道路状況などをリアルタイムで把握し、最適ルートを探すために通信を使うだろうが、安全に関わる瞬時の判断のところで通信は必ずしも必要ではない。
どういうことか。自動車業界で研究開発が進んでいる、車と車、車とインフラとの通信技術についてご紹介したい。
安全性を高めるための“プラスアルファ”にすぎない
昨年11月、ホンダが「2050年交通事故ゼロに向けた、先進将来安全技術を世界初公開」と題し、車同士の通信や道路に設置されたカメラとの通信を利用し、運転の安全性を高める技術を開発中だと発表した。他社も同じような開発を進めている。
具体的にどのような技術なのか。想定されるのは次のような場面だろう。
もしも車同士で通信できれば、もっと安全に車線変更ができるかもしれない。
▼交差点に向かっている車が、直角に交わっていて様子が見えない道路の状況を
事前に知ることができれば交差点での事故が減るかもしれない。
たしかに、このような技術は、通信障害が起きれば、合流地点などでの安全性が低くなる恐れがある。しかし、あくまでも運転の安全性を高める「プラスアルファ」が機能しないということにすぎず、たちまち「玉突き事故」という技術ではないのだ。
ある自動車メーカーの技術者は「もちろん100年後にすごい通信システムが完成し、クラウドですべての車を制御する、という仕組みができるかもしれない。それを否定しないが、もしもそうなったとしても通信に車の安全を全て委ねることにはならないでしょうね」と指摘する。