考えてもらいたい。COVIDによって2021年末までに1700万をこえる超過死亡が引き起こされた。この数にはぞっとせずにいられない。しかしこれを過去10年間の発展途上国での死者数と比べてみよう。

2400万人の女性と赤ん坊が出産の前、最中、直後に亡くなった。腸疾患で1900万人が死亡した。HIVで1100万人近くが死亡し、マラリアで700万人をこえる死者が出て、そのほとんどが子どもと妊娠中の女性だ。そしてこれは過去10年間だけの数字である。そのずっと前からこうした病気で人が死んでいて、パンデミックが去ってもこれらはなくならない。毎年襲ってくるが、COVIDとはちがって世界の最優先課題として位置づけられてはいない。

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若くして死ぬか健康な大人になるかは生まれた国とお金次第

こうした病気で亡くなる人の圧倒的多数が低・中所得の国で暮らしている。どこで暮らしていてどれだけお金をもっているかによって、若くして死ぬか成長して健康な大人になるかがおおよそ決まるのだ。

ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)

これらの病気のなかには、低所得の熱帯諸国におもに存在し、それゆえ世界の大部分で無視されがちなものもある。過去10年間で、サハラ以南のアフリカではマラリアで400万人の子どもが死亡しているが、アメリカでの死者は100人に満たない。

ナイジェリアで生まれた子どもは、5歳の誕生日を迎える前に亡くなる可能性がアメリカで生まれた子の28倍高い。

いまアメリカで生まれた子どもは79年間生きることを見こめるが、シエラレオネで生まれた子が見こめるのはわずか60年だ。

健康格差はコロナに限った話ではない

つまり健康格差は珍しいことではない。COVIDへの世界の不平等な対応に富裕国の多くの人がショックを受けたのは、それが異例だったからではなく、ほかのときには健康格差が目に入っていなかったからだと思う。世界全体が経験したCOVIDという病気によって、いかにリソースが不平等かだれもがわかるようになったのだ。

みなさんを落ちこませたいわけでもなければ、国際保健に命を捧げてこなかった人たちを非難したいわけでもない。ポイントは、これらはすべてもっと注目されてしかるべき問題だということだ。こうした病気を患う人のほとんどが低・中所得の国で暮らしているからといって、その恐ろしさが減るわけではまったくない。