バイデン大統領は台湾防衛の意思を示すべきか

【桜林】この台湾に対する動きは、アメリカ国内でもけっこう反響が大きかったのでしょうか?

【小野田治(元空将)】台湾に関しては、ウクライナ侵攻以前から同様の動きはあったように思います。特にここ5年から10年ぐらい。

【伊藤(海)】中国とのトラブルがあってからですね。

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【小野田(空)】アメリカでは現在、リベラルな識者の中にさえ「もはや戦略的曖昧性が大した意味をなさなくなっている。はっきりと台湾防衛の意思を示さなければ中国を抑止できない」といった声が大きくなっているのは事実です。しかし、私個人としては、その意見には疑問を覚えます。

たとえば、中国はAUKUS(米英豪安全保障協力)やQUAD(日米豪印戦略対話)を指して、「中国を包囲し、封じ込めるための仕組みだ」というようなことを言っているし、実際そう考えていると思います。こうした安全保障の枠組みがどんどんできていくことが、中国にとってはちょうどロシアにとっての「NATOの東方拡大」のように映るわけです。

それに加えて、「台湾は自国の一部だ」と主張する中国に対し、アメリカが戦略的曖昧性から一歩踏み出して「何かあったら台湾を守る」などと明言してしまうのが、本当に抑止として賢いアイデアなのか、ということです。

私としては「戦略的曖昧さを捨てるべきだ」という意見には賛同しかねます。ただし、「AUKUSやQUADが危険だからやめろ」と言っているのではありません。もちろん、各国の安全保障もいろいろな形で確立させていく必要のあることです。抑止を高めるために重要なのは、そこでどのような協議がなされ、各国の協定がどのように進もうとしているのかを、中国に対してきちんと開示していくという取り組みだろうと思います。

【桜林】一方で、インドなどは、良くも悪くも「曖昧さ」を貫いている感じがあります。

【伊藤(海)】しょうがないでしょう、あれは(笑)。

【桜林】インドが中立的な立場を貫く(※)のは、織り込み済みなところもありましたけどね。

※ インドは、日・米・豪とともにQUADの連携国であり、アメリカは今回の対ロ戦略においてもインドを重要視している。しかし、インドはウクライナ侵攻問題を受けて、ロシア側にもNATO側にも中立的立場を貫いている。こうしたインドの立場については、インドが軍事力をロシアに大きく依存しているという指摘や、中国の脅威に対抗する上でロシアを必要としているとの見方もある。

台湾軍はアメリカ軍と一緒に戦うつもりはない

【伊藤(海)】台湾の話に戻りますが、実は台湾軍は、有事の際には自力で戦うつもりでいます。だから、アメリカにはむしろ曖昧でいてもらった方がやりやすいわけです。アメリカに「一緒に戦う」と歩み寄られても、台湾軍自体にはその気がない。そこが一般的なイメージとはちょっと違っていて、ちまたの台湾有事の議論ともズレがある。

【桜林】「アメリカはいつも判断を間違える」などとよく言われますが、その点はいかがでしょうか。

【伊藤(海)】しょっちゅう(笑)。

【小川清史(元陸将)】結局、エンドステートがずれてしまうんでしょう。“勝ち”にあまりにこだわりすぎてしまうあまりに。

【伊藤(海)】そう。政治的な目的が達せられないと意味がないのに。