アメリカが「曖昧」だったら侵攻は起きなかったかもしれない
【桜林美佐】ウクライナ情勢が台湾に及ぼす影響についておうかがいしたいと思います。
今回のウクライナ侵攻を受けて、アメリカの高官が立て続けに台湾を訪問したり、4月初旬にはナンシー・ペロシ下院議長も訪台を発表(コロナ陽性で一度中止し、8月に実施)したりするなど、アメリカ国内でも台湾問題への懸念が強まっているよう見受けられます。
これまで「戦略的曖昧さ」(政府が外交政策の側面について、意図的に曖昧にすること。諸外国と自国の政策目標が相反する場合や、抑止政策におけるリスク回避に有効)を保ってきたものが、かなり旗幟鮮明になってきたということでしょうか。
【伊藤俊幸(元海将)】消極的と積極的、どっちの「曖昧」を選ぶのが効果的か、という話ですね。今回の戦争にしても、おそらくはバイデン大統領が「ウクライナには軍事介入しない」と明確にしてしまったがゆえに起きたロシアの侵略でしょう。「アメリカが軍事介入するかしないかは、私(大統領)の指示ひとつで決まるぞ。やるかやらないかわからないけど、よく考えて行動しろよ」などと「曖昧」にしてロシアを脅しておけば、また違う結果になったのかもしれません。
トランプ前大統領であれば、きっとそのような対応をしたのではないかと言われています。
おそらく今のアメリカは、「我々はパートナーとしての台湾を見捨てませんよ」という態度を示しているのでしょう。ウクライナはある意味、一度見捨てられたようなイメージがついてしまっています。台湾に対しては、その部分の信頼を取り戻すべく動いているのではないでしょうか。
今回のウクライナ問題で、NATOの「同盟国」と「パートナー国」では、その扱いが全く違うことが明らかになりました(ウクライナはNATOのパートナー国)。それを踏まえると、台湾もアメリカの「パートナー国」でしかありません。だから、アメリカは、「パートナー国のサポートも決して怠らない」というメッセージも兼ねて、現在の台湾との関係を示していると考えられます。