細川内閣では官房長官だった武村正義氏。

だが、政権を握った野田は躊躇なく財務省との「抱き合い」路線を選択した。鳩山、菅の両首相の失敗を見て、二の舞いを演じないためには「最強の官庁」との連携は不可欠と判断したのだろう。

財務省にしても、野田は「待望久しい首相」だったに違いない。その財務省で事務方のトップに立つ勝栄二郎事務次官は1993~94年の細川護煕首相時代、武村正義官房長官(後に蔵相)の秘書官だった。武村が印象を語る。

「物静かで控えめ。表に出たがらない性格で、実際は強引に野田さんを引っ張っていくようなキャラクターではない。だが、腹が据わっている。野田さんの腹が据わってきたのも財務省全体が締まっているのも、彼の腹がどーんとしているのが影響しているのではないかと思う」

菅直人内閣では環境相だった小沢鋭仁氏。

財務官僚の政治家操縦術について、馬淵はこんな一面を強調している。

「上げ方がうまい。他の役所の追随を許さない。相手に言いなりになっていると感じさせずに言いなりにしてしまう。おだてられていると感じさせずに気持ちよく上らせる。すごいですよ。過去の発言や行動をすべてチェックし、ピックアップして全部結びつける。たとえばいつのまにか消費税増税のストーリーが自分の言葉ででき上がっているわけです。ふだんから全部マークしている。財務省は、これと思う政治家にマンツーマンでぴたっと役人が付いて、それで洗脳する」

小沢鋭仁元環境相も自嘲気味に言う。

「あれだけの秀才たちから『あなたしかやる人はいない』と言われたら、その気になる。菅さんも野田さんもころっといった。小泉さんみたいな人は言うことを聞かないけど、民主党は純情で経験不足だから、ちょろいもんです」

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(尾崎三朗=撮影 PANA=写真)