気をつけたい「見かけ上の適応」

今回の調査で、突然休職するリスクの高い「隠れテレワ負債者」と呼ばれる方の76%が、年収800万円を超えるハイパフォーマーであることが明らかになっています。しかし、そのハイパフォーマンスが抗ストレスホルモンによる「見かけ上の適応」である可能性について注意しておく必要があると思います。

なぜならば、抗ストレスホルモンはあくまでも危機に対する「短期決戦」向きだからです。

抵抗期の期間は概ね「3カ月程度」と言われており、このドーピング期間を終え、副腎に貯蔵されているホルモンが枯渇すると、坂道を転げ落ちるように胃潰瘍やうつなど、いわゆる「病名」がつくような状態に入ります。

さらに、「Zoom fatigue(Zoom疲れ)」と呼ばれる、テレワーク特有のストレスの存在も徐々に明らかになってきています。

例えば、人間というのは視覚情報として認知負荷が高いことが知られており、それがずらっと並んだギャラリービューを見ることは負担がかかりますし、スピーカービューで相手の顔がでかでかと映るのも圧迫感があります。

画面に自分の顔が映っていることも、自分を強く意識しすぎてしまい、ストレスの原因になることがわかっています。これは「鏡の不安」と呼ばれ、女性により強く見られやすい特徴があります。こうしたストレスは、画面オフを頻繁に活用することで軽減します。

また、対面で人と会話したときに得られる相手のリアクションや表情などの情緒的な交流を、脳は「報酬」として受け取るのですが、ビデオ会議だと会話にラグが生じたり、円滑に会話が進まなかったりするため「報酬」が得られにくいのです。

前頭前野の活性化はオンラインではいまいち

「脳トレ」で知られる東北大学教授の川島龍太先生によれば、良いコミュニケーションが取れると、お互いの脳の前頭前野が活性化されるといいます。この反応は現状直接顔を見合わせるときに限定されており、オンラインでは前頭前野の活性化はあまり働かないそうです。

患者さんの中でも「オンラインでのつながりは何か物足りない」と仰っていた方が多かったのですが、その感覚は的を射たものだったと言えるでしょう。

テレワークは、通勤や移動がないのでオフラインでの仕事よりも楽であるはず、という思い込みは、先述のドーピングによる「見かけの適応」と同様、疲労感の乏しい疲労の蓄積の原因になるので、注意が必要です。