日本の「意図的発砲」との主張に不快感を表した中国

真相は不明なまま、畠中公使は6月16日、外交部に行き、徐敦信アジア局長、王毅日本課長と面会し、抗議の意を表す書面を手渡した。この中で日本大使館は外交公寓に対する発砲を「戒厳部隊蓄意槍撃」(戒厳部隊による意図的発砲)と断定した。

これに対して徐敦信は強く反応した。

「今次日本側申し入れにある外交団に対する『意図的発砲』との見方及びこれに関わる中国政府及び戒厳部隊に対する責任の追及については受け入れることができない」

その上で、「進行中の戒厳軍に対し建国門外外交団アパート及びその向かい側のビルから発砲があり真にやむを得ず反撃したというものである」と従来の説明を繰り返した。そればかりか日本側への不快感を露わにした。

「ちなみに他の外交団からも今次事件に関する抗議を受けているが、これを『意図的発砲』としたのはおそらく日本のみであろう」

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中国側の強硬姿勢に日本は抗議を表沙汰にしなかった

畠中は徐敦信の頑なな強硬姿勢に腰が引けたのだろうか。徐から「本件申し入れ文書の内容をもし日本側が公表するのであれば、中国側としても上記文書に対し反論せざるを得ず問題解決が難しくなる恐れがある」と迫られると、こう応じた。

「右文書は公表せず、後日中国側正式回答を得た上で取り扱い振りを検討したい」

このやり取りは、前述の東京宛ての「秘」公電「外交部への申し入れ(館員住宅の被災)」に記載されたが、同公電ではこう但し書きが加わった。

「当館としては現段階で本件を文書で申し入れたことが明らかになり、文書の内容、先方の反応等について外部の関心を呼ぶことはかえってわが方の対応を難しくするので、少なくとも正式回答があるまで外部に公表しないことが適当と考えるので本省(外務省)におかれてもかかるラインで対応願いたい」

外交官宅が無差別乱射を受けるという前代未聞の事件について、中国政府に文書で抗議したことを当面、隠して表沙汰にしないという「弱腰」対応である。