遺伝だけではなく環境要因の影響も大きい

言語能力については、世代間伝達ということがよく言われますが、その場合も家庭という環境要因の影響を見逃してはなりません。

心理学者の猪原敬介は、言語能力の発達に関する諸研究を踏まえて、早期の言語能力が高いほど、その後も言語能力を伸ばしていける傾向があり、その早期の言語能力を規定する重要な要因は、養育者から子どもに伝達される有形無形の資本であると言います。

そして、養育者から子どもに伝達される有形無形の資本として、知能、家庭教育、親の社会経済的地位、親の学歴などをあげています。この中の知能、親の社会経済的地位、親の学歴などは遺伝要因とみなされがちですが、じつは、そこには遺伝要因と環境要因が絡み合っているのです。

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知能には遺伝が強く関係しており、親の知能が子どもの知能に遺伝的に影響するわけですが、親とのやりとりを通して親の知能レベルの影響を子どもが受けるという意味では、親の知能は環境要因にもなっているのです。

親の社会経済的地位や学歴は、家庭の蔵書数(家にある本の冊数)にも影響するでしょうし、知的好奇心を刺激する文化的施設に子どもを連れて行くかどうかにも影響するでしょうし、読書や勉強に対する親の取り組み姿勢を自然に真似るという形でも影響するでしょう。

それらは、まさに家庭環境という意味での環境要因と言えます。

蔵書数が多いほど子供の学力が高い

世代間伝達というと、遺伝の力を思い浮かべて、どうにもできないことのように思いがちですが、このような環境要因に目を向ければ、やりようによっては子どもの言語能力の向上をいくらでも促すことができるとわかり、工夫や努力の方向性も見えてくるでしょう。たとえ親自身の社会経済的地位や学歴にハンディがあっても、そこをうまく補って、子どもにとっての好ましい環境要因を整えていくことができるはずです。

家庭の蔵書数が多いほど子どもの学力が高いというのは、さまざまな調査研究によって示されています。

たとえば、2017年に文部科学省によって実施された全国学力・学習状況調査の結果と、その対象となった小学6年生および中学3年生の子どもたちの保護者に対する調査の結果を関連づける調査報告書があります。それをもとに家庭の蔵書数と子どもの学力の関係について考えてみましょう。

その調査報告書では、家庭の蔵書数と子どもの学力との間にも、興味深い関係が見出されています。蔵書数の多い家庭の子どもほど、学力が高いのです。