戦国大名は英雄ではない

【深井】現代と死生観が違っても、ですか。

【本郷】ええ。当時の人も神が実在するとは思ってなかっただろうと言いましたが、それでも、仏教の総本山の焼き討ちなんて罰当たりなこと、応仁の乱の例を考えても、普通はできません。それを「手順を踏んだから理知的だ」というのは、どうかと思うんです。

【深井】お話を伺うと、歴史のディテールに対する意識と想像力がすごいと感じます。プロセスを踏んでいるから、当時の人間としては外れていないだろうという考えがある。でも実際に、目の前で総本山が焼かれることを想像してみろと。机上の空論ではなく、人間としてどう思うかってことですよね。

【本郷】ええ。それでいうと、世間では戦国大名は英雄視されますが、僕たち歴史学者の感覚では、英雄でも何でもないんですよね。必要以上に人を殺し過ぎているから。伊達政宗なんて敵勢の城下のおんな子ども、犬や猫に至るまで皆殺しにしたといわれます。本当に優秀な戦国大名は、そこまでやりません。それをすると、占領後の政策がまとまらないからです。

だけど、この作戦をやめなかったのが信長なんです。そう考えると、「こいつら邪魔だから、みんな殺してしまえ」と考えていたのでは、と推測できます。まあ僕たち自身が、ドラマの時代考証でこうした世間の勘違いに加担しているんですけど。

「実際の信長はやさしい人だった」と言うことはできるが…

【深井】そういうふうに歴史上の人物を想像するときは、人物を自分に乗り移らせるんですか? それとも自分が向こうに乗り移る感覚なんですか?

【本郷】乗り移るというか、「信長だったらどう考えるだろう」と、彼の精神構造を自分なりに復元していきます。

【深井】「復元」という感覚なんですね。

深井龍之介、野村高文『視点という教養 世界の見方が変わる7つの対話』(イースト・プレス)

【本郷】この作業は本当にむずかしくて毎回本当に苦心します。たとえば「テレビだから」と割り切って、「信長はやさしい人だった」とひと言で言うのは簡単なんだけど、なるべくそうしないように心がけています。

【深井】そもそも、人間自体がひと言で語れないですからね……。「実は○○だ」と言うことに、ほとんど意味はないと思います。

【本郷】おっしゃる通りです。犬を見たら僕たちは「かわいい」と思うじゃないですか。だけど世の中には「おいしそう」と思う人もいるわけです。

【深井】そうですね。それに、いくら本人が後世に言葉を残しても、それが本心かどうかもわかりませんし。

【本郷】そう、そこ! そこなんです! さっき、日記や古文書は信頼性が高いと言いましたが、立場や状況から、あえて嘘を書く場合もあったはずです。

【深井】それに人間って、自分の気持ちがわからないこともありますもんね。

【本郷】ええ、まさにそうです。そうなると「史料を読むってどういうことなんだ?」という原点に帰ってきます。

【深井】うわ、めっちゃディープですね……。わからないことがたくさんある中で、限られたデータと状況から想像力をフルに働かせて歴史を復元するという感覚が、学びになりました。僕たちでいえば、Slackの連絡事項からその時代のすべてを想像するのと同じですからね。

【野村】そうやって考えると、すごいことですね。

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