「くっせーなあ。はやくしろよ」
トイレの裏側に回り、フタを開けてホースを突っ込む。これも慣れた作業だ。さすがにウンコのニオイには順応できてないが、最初の驚きにくらべれば、それほど気にならなくなってきた。
浜口さんが汲み取りのボタンを押しに行ったところで、一人の現場作業員が用を足しにやってきた。超細マユ毛のいかにもヤンキーだ。
「すみません。いま汲み取り中なので少々お待ちください」
「は? なんだよそれ」
ガラの悪い奴だなー。我慢しろよ。
スイッチが入って汲み取りがスタートした。「すみません。少々お待ちください」
彼もこのニオイに気が付いたのか、眉間にシワを寄せている。
「チッ、くっせーなあ。はやくしろよ」
くっそー、なんだよ、その態度は! こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって。ズ、ズズズズ。汲み取りの大きな音が、建設作業中のアパートに響き渡った。それに気づいた建設作業員たちが、チラチラとコチラを見てくる。しかも、バレてないと思って、小声で「くっさ」と口を動かしている。なんか、すげーバカにされてる気がするぞ。
愚痴ると、浜口さんはフッと力なく笑って…
1時間ほどで仮設トイレの汲み取りを終え、浜口さんと車に戻った。あまりにもイラついたので、思わず愚痴ってしまう。
「なんかあいつら腹立ちますね。明らかに俺らのこと下に見てましたよ」
フッと力なく笑って答えた。
「まあ、イラつくけど仕方ねえよ。それが仕事だからな」
うーん、まだ、イライラが収まらない。あの見下した感じがムカつく。
「あんなのしょっちゅうだよ。いちいち気にするだけ無駄だって」
「そうなんですか……」
「俺らだってさ、ホームレスを見下したりすることあるじゃん。それと一緒だよ」
なんか納得いかないなあ。
「さ、次でラストだ。早く終わらせようぜ」
その次も同じような建設現場で、さげすむような視線をビンビン感じながら作業をこなした。人前でやるには気が引ける。その点、浜口さんはキモが据わっていて、終始、表情を崩さなかった。
時刻は16時。タンクにつまった、し尿を処理施設に運び込んでから、足立区の事務所に戻ってきた。始業のときは気になったガレージのニオイも、いまとなっちゃほぼ無臭に感じる。
なんだか今回はどこか爽やかな気分だぞ。この仕事なら、いずれ本気でやってみたいかも。