慶應塾高元監督「金太郎飴みたいな体育会的人間を製造しちゃダメ」
“エンジョイ・ベースボール”の礎を築いた66歳は江戸っ子のべらんめぇ調特有の小気味良さで周囲を和ます。
「あいつら、教え子だぜ。なんで子供みたいな連中と一緒に仕事しなきゃいけねえんだ」
「今までスポンサー回りなんてしたことないから慣れねえよ」
昨夏の慶應義塾高校(以下塾高)の甲子園優勝で高校球界をにぎわすエンジョイ・ベースボールブームだが、元をたどれば塾高の森林現監督の前任者の上田誠前監督にたどり着く。
1991年から2015年までチームを率いて夏1回(08年ベスト8)、春3回(05年ベスト8)、甲子園に導いた。
礎を築いたというのは監督に就任した際に、現役高校生だった今の森林監督らと話し合い、意味のない上下関係を撤廃するなど新しい高校野球を求めて踏み出したからだ。
厳密にいえばエンジョイ・ベースボールは20年に野球殿堂入りした前田祐吉元慶大監督らも提唱し実践してはいるが、塾高では上田が熟成させ、森林が大舞台でお披露目させた形となった。
エンジョイ・ベースボールは社会にどんな役割を果たすか。頭髪を例にして思いを綴った上田のつぶやきがある。昨夏の塾高快進撃の最中のX(旧ツイッター)の発言だ(筆者が一部、要約)。
《「坊主頭にしようが髪の毛を伸ばそうがどうでもいい。しかし揃っている事に違和感を感じない若者を作りあげてるのは如何なものか。大袈裟だよと言われるかもしれないが、日本の社会は『横並び』に安心感を感じる文化がある(中略)みんな同じだと安心する構造は社会を膠着させると思う。
高校野球の伝統は大事。だけど新しい歴史を作るのも大事。金太郎飴みたいな体育会的人間を製造してはいけない。自分の主張を歳上でも上司でもはっきり言えれば周囲も見える。野球選手が社会に出てもっと活躍できる人材になるきっかけは髪型からと思うのは大袈裟かな」》
多様性が叫ばれる時代、いろんな価値観を持った者同士で社会を作ろう。それに野球界も寄与しよう、ということだ。
上田は高校野球にはもう関わっていないから、高野連に忖度もない。言いたいことは言うよ、と“粋”なオピニオンリーダーだ。