「若いころから、他人と一緒に何かやるってのが苦手でな」
「おい、野村。メシ食わねえのか?」
大量のウンコを見て、食欲なんぞ消え失せていたが、浜口さんに奢ってもらった手前、食わないわけにもいかない。
「おにぎりいただきます!」
「おう、食え、食え」
にしても、この人はどんな経歴なんだろう。かなりのベテランっぽいけど……。
「浜口さんはどうしてこの仕事を始めたんですか?」
「どうしても、なにも、金をかなりもらえるからだよ」
へー、どれぐらいの額なんだろう。失礼だけど聞いてみよ。
「ちなみにおいくらくらいなんですか?」
「まあ、教えてもいいか。だいたい年に450万くらいかな」
おお、確かになかなかいい金額をもらってますなあ。
「俺の年齢からすれば平均より低いくらいだろうけど、今までに比べれば十分だよ」
ここから浜口さんの自分語りが始まった。彼はいま41才で独身。この会社の前は宅配便の配達員をやっていたらしい。「若いころから、他人と一緒に何かやるってのが苦手でな。なるべく人と関わらない方がラクなんだよ」
勝手に社交性のある人だと思っていたのだが、そうでもないらしい。
「だけど、勤めてた宅配会社が潰れたわけ。それでこの仕事に転職したんだよ」
「親には本当の仕事は伝えてない」理由は…
一般的には3Kの代表とされる仕事だけど、抵抗はなかったのだろうか。「うーん、俺自身には全くないけど、親には本当の仕事は伝えてないよ」
汲み取り屋ではなく、普通の清掃会社に勤めていると言ってあるらしい。
「やっぱり、世間体はあんまりよくないじゃん。特に母親は自分のことを責めそうなんだよ」
「というと?」
「もっとちがう育て方をしてれば、息子にクソを掃除させずに済んだかも……。みたいな感じで。俺は何も気にしてないのにさ」
なんとも胸に迫る話だ。
「さ、そろそろ、午後の汲み取りに向かうぞー」
よし、あと少しで今日の仕事も終わりだ。ウンコを片づけに行こう。
次の仮設トイレはマンションの建築現場の中だ。
「お疲れ様でーす」
浜口さんが現場監督となにやら話をしている。よし、いまのうちにホースを準備しよう。車体から取り外して、仮設トイレに向かう。我ながら板についてきたぞ。そこに浜口さんが戻ってきた。
「おっ、仕事が早いな。その調子だ」
やった。褒められたぞ。