ご飯を買いたくてもコンビニに停められない

そんな話をしているうちに車が人通りの少ない道に停車した。まだ河川敷には着いてないのに、どうしたんだろ。

「おう、今のうちにメシを買っとかねえとな。そこのコンビニでおにぎりを二つ買ってきてくれ」

そう言いながら数百円分の小銭を渡してきた。なんでわざわざこんな場所に路駐したんだ?

「コンビニの駐車場に停めると文句言われることがあるんだよ。汚いからどけろってな」

なるほど。職業差別はダメだといっても、バキュームカーには近寄りたくないかもな。ちょっと、心が痛い。

「お前の分もおごってやるから、早く行け!」

走ってコンビニまで行って、適当におにぎりを見繕う。言葉は乱暴だけど、根はイイ人そうだ。

それから数分乗車して、河川敷に到着した。いよいよ、仕事のスタートだ。

写真=iStock.com/kawamura_lucy
※写真はイメージです

颯爽とバキュームカーから降りた浜口さんが車体に固定してあるホースを外しながら説明してくれる。「これを持ってついて来てくれるか?」

直径20センチくらいのホースを受け取って、仮設トイレの裏手に回った。

「種類によって、し尿を溜める場所はちがうんだけど、たいていは裏側から汲み取るんだよ」
「はい。わかりました」

下痢便を何時間も鍋で煮込んだような

浜口さんがしゃがみこみ、トイレの下の方にあるフタをカパっといとも簡単に外した。そこにはドロドロの茶色の液体が並々と溜まっている。うげー、気持ち悪い!

「これが汚泥ってやつ。ウンコは時間が経つと、こういう風に液状になるんだよ」

見た目の衝撃から少し遅れて、激烈な腐臭が鼻の奥に突き刺さった。く、くっせー‼ なんじゃこりゃ。アンモニアの刺激臭と発酵したウンコが混ざってる。今までの人生で嗅いできたものの中で一番強烈だ。下痢便を何時間も鍋で煮込んだような凝縮された腐臭だ。

「うわっ! ニオイがスゴイっすね!」

自分でもわからないが一気にハイテンションになってきた。

「ははは。ここは汲み取りの回数も少ないから、より一層キツくなるんだよ」

いやあ、目に染みる。涙が出てきた。

「じゃあ、それをこの中に突っ込んでくれる?」
「わかりました」

言われた通り、ウンコの海の中にホースを入れる。これでいいのかな。「じゃあ、汲み取りを始めるね」

浜口さんがバキュームカーに駆け寄って、なにやらボタンを押した。ズ、ズズズズ。という音が聞こえて、溜まっていた汚泥がみるみるうちに減っていく。スゴイ! さっきまでたっぷりあったのに、数分でなくなってしまった。いやあ、これがバキュームの威力か。

「よし、じゃあ次に行こう」

なんとか1件目の汲み取りが終了。ニオイはハンパじゃないけど、作業自体は体力を使わないから楽だったな。