中高年になると親への怒りが湧き出す理由

女性に限ったことではありませんが、40代くらいになって、「自分の親が毒親だった」などと昔のことをどんどん思い出して、「怒りが止められなくなってしまう」という相談は、決して珍しくありません。むしろよくあるケースです。単に親に対する怒りだけでなく、親に怒ってしまう、根に持ってしまう自分を責めてしまうところもあるので、一層つらいのです。

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その背景にはやはり「疲労」の影響があることが多いようです。

加齢とともに体力が低下しているのに、仕事における責任、社会における役割は大きくなり、中高年はどうしてもエネルギーが不足した状態になりがちです。Fさんのようにそこに出産・子育てなどという大変なライフイベントが重なると、漠然としたイライラが始まり、その原因をあれこれ考えるうちに、中には、心の棚にしまってあった親への記憶に行き着く人が出てきます。

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心の棚のうち、「親」に関するコーナーには、誰でも、わりと多くの記憶が保管されています。探せば探すほど、どんな人でも、いろいろなエピソードが出てきます。親からのしつけは子どもにとって苦痛であることが多いので、「攻撃された」経験として記憶されます。また「つらいときにわかってくれなかった、守ってくれなかった」ことも強烈な防衛記憶として残りがちです。

これらの原始人モードでの「記憶」は、ネガティブな情報ほどイメージが拡大されています。文字がなかった時代、危険な情報、悪い情報ほどしっかりと覚えて伝えていく必要があったからです。だから人間はネガティブな思い出ほど、よく記憶され、また鮮やかに思い出してしまうものなのです。しかも、弱ったときは、過去のつらい記憶にアクセスしやすくもなります。過去の危険を思い出し、今の自分を守るためです。

さらに記憶は、思い返しの度に加工されていくことが知られています。たまたま思い出した嫌な記憶は、思い出した直後、つらい体感を伴っています。この状態では、危険な部分が強調されています。落ち着いて再検討すれば、違う見方が生まれてくるものです。それを狙うのがカウンセリングです。

ところが、一人で考えていると、危険な部分だけを「見て」、嫌な気持ちを消すために、「忘れてしまう」という対策をとってしまいます。冷静な分析まで届かないばかりか、嫌な部分を何度も反復してしまうので、嫌なところだけが拡大された記憶に加工されてしまうのです。先に紹介した防衛記憶、恨みの記憶が育つメカニズムです。