また男性同士の恋愛は洋の東西を問わずによくありました。プラトン、ソクラテス、アレクサンドロス大王、日本の織田信長をはじめ多くの歴史上の人物が男性同士の性行為をしています。

そうした歴史的な事実を知れば、個々の生き方や考え方が変わるのではないか。元気を持ってもらえるのではないか、と。歴史を知ると今の価値観、日本人が「当たり前」と感じていることが絶対的でなくなるのです。

歴史は暗記をすればいいものではない

【本郷】その点で、1つうかがいたいことがあったんです。小学校から中学校まで歴史は、基本的に年号や人名などの丸暗記ですよね。丸暗記から、ビジネスの現場で働く人たちの悩みや問題を解決する考え方やフレームを提供する『歴史思考』までには、大きな飛躍がある。小、中学校で歴史を学んだ深井さんが、その先にある『歴史思考』にいたるきっかけはあったのですか?

撮影=遠藤素子
深井さんと対談する東京大学史料編纂所の本郷和人教授

【深井】一般的に、歴史と言えば、文部科学省が決めた歴史科目を思い浮かべる人がほとんどだと思います。ですが、文科省の歴史科目とぼくが考える“歴史”は違うものなんです。

そもそも歴史とは、過去に生きた人間の営為すべてですよね。人類が行ってきたことのすべてが歴史と言えます。

その意味で、ぼくが、本当に興味があるのは歴史ではなく、人間社会なんです。人間社会を分析する上で、歴史という集積データを使わない手はない。過去の人間といまのぼくたちの行動には共通点と非共通点がある。そこを分析すれば、様々なことが分かるはずです。歴史から目を背け、活用しないことは、本当に愚かな行為だと思います。振り返ると、そんな問題意識を持ち、歴史を学んできた気がしますね。

年号などをまったく暗記する必要がないとまでは思いませんが、実際、どうなのでしょう。あまり考えたことがないのでなんとも言えませんが……。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ

【本郷】暗記なんてしなくてもいいですよ。調べれば、誰でも分かることですから。調べ方を知っていればいいだけです。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。ビスマルクの格言を借りれば、歴史とは経験を抽象化し、ひとつの法則性を導き出す学問です。1つ1つの歴史的な出来事がどのような状況下で起きたか。これを明らかにしただけでは、経験に過ぎません。