国債が爆弾になる
欧米の中央銀行が超金融緩和から正常化へ舵を切る中、日本銀行の黒田東彦総裁は、アベノミクス(金融緩和)を続ける姿勢を見せている。その結果、金利が低い日本円は売られ、4月20日現在、1ドル=129円台に達した。3月上旬は1ドル=115円程度だったから、かつてないほど急速に円安が進んでいる。
現在の円安やスタグフレーション(不況下の物価上昇)は、マスコミなどで「悪い円安」「悪いインフレ」と表現されている。しかし実態は、そんな優雅な呼び方ができるほど生易しくはない。
このままスタグフレーションが進めば、私が「インプロージョン(implosion)」と呼ぶ状況を迎えるはずだ。爆弾が外に向かって破裂するエクスプロージョン(explosion)に対して、インプロージョンは腹の中で爆発するイメージだ。日銀が腹いっぱいに抱え込んでいる約530兆円(21年12月末残高)の国債が爆弾になる。
欧米の利上げ、QTが発表されると、日本も連動して国債は値下がりし、金利が上昇する。3月と4月に長期金利の変動許容幅が、日銀が上限とする0.25%に達し、日銀は「連続指し値オペ」を発表した。指定した利回りで国債を無制限に買い入れるオペレーション(公開市場操作)のことで、金利上昇を懸念する日銀の緊急対応だ。
しかし欧米が利上げ、QTを進めていく中、日本がゼロ金利・マイナス金利政策、量的緩和を維持することは、将来「インプロージョン」の被害を大きくすることにつながる。
米国は1990年代以降、最終的な利上げが5~6%に達したことが3回ある。今回、米国が利上げを数年間続ける中で、日本がマイナス金利・ゼロ金利を続けたら円の価値はさらに暴落する。ボーダレス経済では、自然現象といっていいほど当然のことだが、日銀やアベノミクスを推進する安倍晋三元首相、学者は「円安は日本経済にプラス」などとトンチンカンなことを言っている。
数年前にMMT(現代貨幣理論)が日本で持て囃された。「自国通貨を発行できる政府は、インフレにならない限り、大量の国債を発行できる」と説明するもので、政府の債務(国の借金)はいくらでも増やせるから日本の財政は健全だという理屈だ。だが、このイカサマ理論でさえ「インフレ率が高くなりすぎない限り」という但し書きがちゃんとある。デフレからインフレに転じ、ハイパーインフレが生じれば通貨の価値は大暴落する。インフレになった今は、誰も話題にしなくなった。