その原動力となったのは、60代以上のシニア層の利用の増加だという。

メルカリがネット上で60代以上の男女1236人を対象に行った調査では、会員1人当たりの平均年間出品数が20代の39個に対し、60代以上が72個と2倍近くに上るほか、年間の利用者数と購入商品総数がともに前年度比約1.4倍、出品商品総数も同約1.6倍と激増した。この間メルカリ側でも、発送時の梱包を簡単にする工夫をこらす、人に会わずにモノを発送できるメルカリポストを設置するなどの施策を行っている。参入の壁である「めんどくさい」を排除するためだ。

ただ、メルカリが中高年の心を捉えた理由は、どうやらその収益性、利便性だけではなさそうなのだ。

前出の調査に協力した経済アナリストの森永康平氏は、こう指摘する。

「自分が欲しいものを探して決済するだけのEコマースに対し、フリマアプリは自分が欲しいものを先に買っていた人から商品を買うことになるため、アプリ内でのコミュニケーションを通じて、自分と価値観が合う人との対話を楽しんでいることが考えられます」

つながっているささやかな嬉しさ

それを裏付けるべく、メルカリのヘビーユーザーである都内在住の60代女性に話を聞いた。

「趣味で続けている書道の手本や篆刻の辞書などをメルカリで探します。自分の寿命も考えると、新品を買っても仕方がないですから。手本は1970年代に出版されたものによい品が多い。少し高額な専門書ばかりですが、ぜひ手に入れたいので、いいものが出品されていないかを、毎朝布団の中でスマホを見てチェックしています」

硯や墨、紙なども含めた高価な物品は、書道の師範の死後、その子や孫が遺品として出品する場合も多いという。

「使いかけのものもまとめて引き取ると、『使ってくださる方がいて、亡き祖母も本当に喜んでいると思います』などとお返事を頂けます。いずれ下の世代に譲る時が来るので、お手本には書き込みはせず、大切に使っています」

昨年末には、ある出品者から購入した書籍が別の人に配送され、別の書籍が送られてくるというトラブルがあった。取引画面から誤配を知らせ、「急ぎではないので」と相手を気遣うメッセージを添えた。すると、「てっきり怒られるものとばかり……優しい方でよかった」という返事が返ってきた。

年が明け、ずっと探していた書籍を発見。出品者を見るとまた同じ人物で、「この本欲しかったんです」「この前の方ですね。正月に実家から持ってきました」と親密なやりとりが生まれた。

「“情けは人のためならず”って本当ですね。実感しました」(前出の女性)