駆け足改革の裏に経済界の焦り

今回の大幅な改革の背景には、経済界の焦りがある。

「1990年代後半以降、アメリカ政府リポートで問題解決型の実データに基づく統計教育の重要性が指摘されてから、アメリカ以外の先進国もデータ分析・活用についての授業を戦略的に行ってきました。その教育を受けた人たちがGAFA(Google、Amazon、Facebook〔現Meta〕、Apple)などの超大手IT企業を支えています。日本はこうした産業構造の変化に対応できる人材育成で完全に後れを取ってしまっています」(渡辺氏)

もう一つの要因は、ビジネス全般がデータの分析結果を基に動くようになったことだ。

「インターネット社会になり、ビジネスのさまざまな場面でデータが取れるようになりました。そのデータをうまく活用できる人材がビジネスの場で欠かせなくなったのです。適切なデータを集める力、データを基に対策を考える問題解決力、データから得られる結論に対する批判的思考力が必要になってきました」

こうした社会の変化に対して、データに強い人材を輩出し続けているのが、滋賀大学のデータサイエンス学部だ。統計学やビッグデータを専門的に研究する学部として、2017年度に新設され、企業からの評価も高いことで知られている。

滋賀大学』HPより

同学部の河本薫氏のゼミでは、AIとデータを社会に出てからも活用できる学生の育成に力を入れている。

「これまでの日本企業の活動は、ベテランの勘に支えられている部分が大きかったんです。“今年の夏にアイスをどれくらい生産すればよいか”“ある部品の在庫をどれくらい持てばよいか”といったことは、社員の長年の勘頼りでした。しかし、ITの進歩によってデータ収集がしやすくなったことや、AIなどの分析技術の向上によって、ビジネスの現場で数字に基づいた計画が立てられるようになりました」(河本氏)

河本ゼミでは企業から課題を聞き出し、データをもらい、分析をするという実践的な形式で学習を進めているそうだ。

「小売業や工場から解決したい問題とデータを提供いただき、リアルなビジネスの課題を解決させるようにしています。小売なら売り上げを上げる方法、工場ならラインの故障予知など、仕事により課題はさまざまです。最終的には企業の担当者を前にプレゼンをさせます。分析結果が改善につながる場合もあれば、厳しいダメ出しで落ち込む学生もいます。自分で課題を見つけて解決まで進めていく経験を何度も繰り返すので、卒業までにはデータ活用のできる立派な人材になりますよ」

就職先は、コンサルから金融、ゲーム、小売までと幅広いそうだ(※)

※編集部註:同大データサイエンス学部のHPによれば令和3年3月卒業の就職先は、ソフトバンク、NTTドコモ、富士通、江崎グリコ、花王、京セラ、帝人、三菱重工業、日本航空、防衛省航空幕僚監部など。

「いまやデータ活用のできる人材は、どの分野でも欲しい存在です。そのため、一見ITとは関連のなさそうな企業からも多数の求人が寄せられています。一般的な総合職のほかに、データサイエンスの専門家枠で採用される学生も多く、中には起業をする学生もいます」