ライブドア事件の場合にもこんな話がある。証券取引法違反などの裁判で、当時ナンバー2だった宮内亮治元取締役は「事件はすべて堀江貴文元社長の指示だった」と証言した。新聞報道によれば、証言した理由は堀江元社長が「おれが逮捕されたら、彼女がかわいそう」と、口にするのを聞いたからだったという。
部下ではなく、まず愛人や愛馬――。この考え方が、「四面楚歌」やナンバー2の離反を招いたのは明らかなのだ。
この後、項羽は、死の間際にこんな恨みごとも口にしている。
「兵をあげてから8年、わしは70余りもの戦闘に加わり、攻めて良し守って良しで、いまだ敗北したことがない。だから天下の覇権も握ったのだ。そんなわしが、これほど苦しむのは、天がわしを滅ぼそうとしているからだ。決して戦い方がまずかったからではない」
そして項羽は、実際に敵軍の包囲網の一角を指しながらこういった。
「わしの発言を証明するために、あの将軍をうちとってみせよう」
自軍を4隊に分けると、項羽は大音声をはりあげながら一気に攻め寄せた。敵はみな倒れ伏し、あっという間に将軍は斬り伏せられた――。
個々の戦の能力という意味で、項羽はやはり飛び抜けた存在だったのだ。
かたや劉邦も、項羽を倒した勝因について、次のように述べたことがある。
「帷幄のなかに謀をめぐらし、千里の外に勝利を決するという点では、わしは張良にかなわない。内政の充実、民生の安定、軍糧の調達、補給路の確保ということでは、わしは蕭何にはかなわない。100万もの大軍を自在に指揮して、勝利をおさめるという点では、わしは韓信にはかなわない。
この3人はいずれも傑物といっていい。わしは、その傑物を使いこなすことができた。これこそわしが天下を取った理由だ。項羽には、范増という傑物がいたが、かれはこの一人すら使いこなせなかった。これが、わしの餌食になった理由だ」
組織の長は、自身が優秀であるより、優秀な人材を信服させ、使いこなせる人――。この金言は、時代を超えた永遠の真実であり続けているようだ。