世界的なメガトレンドになった背景には、気候変動の問題が現実の経済・社会に悪影響を及ぼすようになったこともある。だが、再生可能エネルギーの国際的な価格下落と、脱炭素が経済性を持ってきたことが最大の要因だろう。先行者の利益を得たい欧州にとっては、世界的に吹いた脱炭素の風は大いにプラスとなった。

ルール作りでも、経済的にも主導権を取りたい欧州は一貫してあるブランディングを開始する。それは「CO2を出さないことの正義」という新たな価値観だ。これは脱炭素転換で先行する欧州にとっては非常に都合がいい。気候変動問題はCO2の排出が主要因と考えられている。この欧州の「CO2無排出正義」は、地球環境の保護、国際社会への貢献という大義名分を与えるからだ。

他国が異を唱えるものなら、「気候変動問題は喫緊の課題であるのに、経済成長を優先する姿勢は果たして正しいのか」と欧州勢は反論できる。もちろん、国際貢献の文脈もなくはない。欧州の世論が気候変動対策を支持する土壌があるのも事実だ。

しかし、国際交渉に携わった現場で筆者が見てきたのは、欧州の政策展開は国際貢献の文脈を超えて、自国・自地域にとって都合のよいルール・体制作りを行いたいという主導権争いを色濃くしたアグレッシブな姿勢だった。

特にパリ協定が発足してから、その傾向は一層強くなった。パリ協定はCO2無排出正義にお墨付きを与える枠組みであるが、アメリカや中国の企業を中心に、脱炭素分野で猛追を始めたことが欧州をあせらせた。

日本の石炭火力、ハイブリッド車の排除に躍起に

2019年に一度は調整に失敗した「2050年カーボンニュートラル」だが、EUは2020年に合意し、他国に先駆けて方針を打ち出した。欧州はこうして、後戻りでいない一本道に自ら足を踏み入れた。

3月15日にEU加盟国の間で基本合意に至った国境炭素調整措置(CBAM)の導入は、欧州の脱炭素が「気候変動対策」にとどまらないことを明確に示している。

CBAMは、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける措置だ。CO2無排出正義を掲げつつ、EU域内の産業を保護するもので、気候変動対策でも、戦後の国際秩序とも言える自由貿易の原則から言っても問題となり得る措置だ。

これは自動車分野にも当てはまる。2015年のディーゼルエンジンの排出規制不正の結果、燃費のいい車の競争で日本に敗れた欧州勢は、CO2無排出正義を掲げて反撃に出る。

2021年7月、欧州委員会は2035年に欧州で販売される新車について、CO2の排出を認めない方針を発表した。日本勢が得意とするハイブリッド車は「CO2を出す」という理由だけで欧州市場から排除されることになった。

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