利払いを支えた要因の一つとして、“ノルドストリーム1”の稼働継続が大きい。中銀制裁や国際資金決済システムである“国際銀行間通信協会=SWIFT”から主要銀行が締め出されたロシアにとって、ノルドストリーム1は外貨調達の最後の砦に位置づけられる。その一方で、ノルドストリーム1はロシアが欧州へのガス供給を止め西側諸国の経済と社会に大打撃を与える切り札でもある。1~2月の間にロシアから欧州に供給された天然ガスの6割がノルドストリーム1経由と報じられている。

ロシアと欧州各国の関係は“首の皮一枚”

EUは天然ガスの4割をロシアから調達してきた。ドイツのショルツ首相は、市民生活に必要なエネルギーを供給するために「ロシア産の天然ガスを代替するものを持っていない」と述べた。欧州各国はロシアに依存することの危険性を認識しつつも、今すぐにノルドストリーム1が遮断される展開は防がなければならない。そのためにロシア最大手のズベルバンクとノルドストリーム1の大株主であるガスプロム傘下のガスプロムバンクはSWIFT除外の対象外とされた。

それによって西側諸国は目先の欧州のガス需要を満たしつつ、ロシアの米ドル資金が枯渇し、追い込まれたプーチン政権がさらなる暴挙に打って出る展開を防ごうとしていると考えられる。現時点でロシアと西側諸国は、ノルドストリーム1の稼働継続などによって極めて不安定かつ脆弱な関係を維持している。それは首の皮一枚の関係といえる。

“脱ロシア”に向け動き出すEU各国

言い換えれば、EU各国がエネルギー面でのロシア依存から脱却するには時間がかかる。足許では気温上昇によって暖房向けの天然ガス需要が減少し始め、EU加盟国で天然ガス在庫が枯渇する恐れはひとまず低下したようだ。その状況下、欧州委員会は来冬の電力需要を満たすために米国からの天然ガスの共同購入などを協議する。夏場にはノルウェーから天然ガス供給が増える見込みだ。

また、ドイツは2年以内に液化天然ガス(LNG)の輸入ターミナルの稼働を目指し、カタールと長期供給契約に関する交渉を開始した。脱炭素への取り組みを背景に減少してきた石炭火力発電が延長される可能性もある。洋上風力発電など再エネ由来の電力供給も強化されるだろう。このように、西側諸国はノルドストリーム1の遮断リスクへの備えを急ぎつつ、ロシアへの制裁を実施している。

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