放射性廃棄物の処分費試算は将来に飛ばされた

ところで、この試算にはとんでもない穴がある。報告書にも書かれているが、それは、取り出したデブリを含む放射性廃棄物の処理・埋設費用が「含まれていない」ことである。

吉野実『「廃炉」という幻想』(光文社新書)

これについてエネ庁の担当者は、「取り出し後の処理、埋設の費用については、費用面だけでなく、埋設場所や埋設方法など社会的な議論になる。どこかのタイミングで、議論しなければならない」と話している。見方を変えれば、事実上、処分・埋設費用の試算を将来に飛ばしたことを認めた形だ。

使用済み燃料を再処理するプロセスで発生する超高線量のガラス固化体の処分地どころか、電力業界のいうところの“低レベル放射性廃棄物”のうち、L1、L3ですら処分地は決まっていない状況の中で、建屋も含む全ての施設の処理・埋設費用までを含めて試算するのは不可能に近かっただろう。

国と東電はそろそろ正直ベースの議論を

だが一方で、エネ庁は「東電が十分に資金を準備するためのスキームが必要だった」とも述べている。2016年12月の段階で、いきなり廃炉費用に、少なくとも数兆円規模になるであろう処理・埋設費用を足しこんでしまっては、金融機関から借りられるものも借りられなくなる。いや、それどころか、下手をすると破綻処理しなければならなくなる。

そんな苦しい台所事情があったにせよ、繰り返しになるが、5兆円、11兆円、22兆円……と倍々に増やしていくというやり方は、あまりに不誠実ではないか。国と東電は、そろそろ正直ベースで議論を開始し、廃炉のエンドステート(最終形)も含めた議論を、地元と開始すべきだと筆者は考える。

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