再生可能エネルギー関連の就業者数は7年で1.5倍
では、脱炭素化によりどの程度、雇用に変化があるのでしょうか?
今後、雇用を創出するグリーン・セクターとして期待されているもののひとつに、再生可能エネルギー分野があります。例えば、太陽光発電パネルや風力発電の設備を設置する仕事やそれらを管理・維持する仕事などで新規の雇用が生み出されると考えられています。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、再生可能エネルギー関連の2019年の就業者数は世界全体で約1150万人となっており、2012年と比べ5割以上増えています。再生可能エネルギー関連の雇用は今後も増加することが予想されており、IRENAによると、その数は2050年には4200万人に達します。
成長産業に転職できるスキルアップを目指せ
このようにグリーン・セクターでは今後、新規の雇用が創出されることが期待されている一方で、ブラウン・セクターでは雇用の喪失が見込まれます。ただし、炭素を多く排出している産業における雇用者数は、その生産量と比べて、比較的少ないという特徴があります。
OECDによると、欧州25カ国では、最も炭素集約度の高い10の産業だけで、すべてのCO2排出量の約90%を占めていますが、その雇用量は全体の14%にすぎません。
これは、ブラウン・セクターの経済活動を減少することによる雇用の減少は、経済全体でみるとそれほど大きくはない可能性があるということを意味しています。
もっとも、炭素集約型産業から脱炭素集約型産業への移行では、炭素集約型産業の雇用だけが影響を受けるわけではなく、そこにインプットを提供する様々なセクターの雇用も影響を受けるため、雇用消失の規模は大きくなる可能性は十分にあります。
脱炭素化が経済全体の雇用量にどのような影響を与えるかについては、まだ十分な研究蓄積がないというのが現状です。ただし、OECDなどの調査研究は、脱炭素化はネットで雇用にプラスの効果を与える可能性があるものの、決して大きくはないと指摘しています。
ですが、ここで重要なのは、脱炭素化が経済全体で雇用量を大きく増加させないといっても、その背後には多くの雇用創出と雇用消失があるということです。
その際に重要になるのが、雇用が失われるブラウン・セクターから雇用が創出されるグリーン・セクターに労働がスムーズに移動できるかどうかです。そこで、鍵となるのが、労働市場の流動性と労働者のスキルです。労働市場が流動的であれば、衰退産業か成長産業への労働の再分配が円滑に行われ、経済成長にもつながります。ただし、それだけでは十分ではありません。労働者も衰退産業から成長産業に移ることができるように、そのスキルを磨いておく必要があります。