そんなアナウンサーとしてはやや失格な私が、どのように緊張と向き合ってきたかといいますと、「アウェイ感を減らすこと」に重点を置いています。味方を増やすという言い方でもいいかもしれません。

例えば、講師としてみんなの前で話をしてほしいとお願いされたとします。初めて呼ばれた講演会場は完全アウェイです。こんな時はどうしたらいいでしょうか。

私がいつも行っているのは、まず味方を見つけるということです。その会場には、講演を依頼してくれた人がいるわけですから、少なくとも1人は味方が存在します。

そこで、その人との関係を話に織り込みながら講演会に呼ばれた経緯などを話していくのです。そうすれば聴衆に関係のある人が話に登場しますし、頷いて聞いてくれる人も徐々に増えてきます。

こうして少しずつ味方を増やしていくのです。こんな、自分と聴衆の間にある小さな共通点を成長させていきながら、アウェイ感を減らしていくやり方は、おすすめです。

どんな共通点でもいいのです。講演会場の目の前にあった牛丼屋さんの話でも、天気の話でも、聞いてくれている人との間に少しでも共通点があればいいのです。

現場は入念にチェック、緊張のシミュレーションで備える

ただ、取引相手を前にしたプレゼンなどでは、その場をホームに変えるのは難しいでしょう。相手にとっても会社の利益をかけた勝負の時間ですから、シビアに話を聞くはずです。

しかし、実はこういった場面の方が対策はシンプルになります。プレゼンをする前に相手の視線で自分を見るシミュレーションをしてください。

完全アウェイのプレゼン会場に入っていく自分、それを迎え入れる相手方の社員。こんな風にして、緊張のシミュレーションを行っておくのです。より緊張が増してしまう場合もありますが、これは仕事であり、勝負ですから仕方ありません。

藤井貴彦『伝わる仕組み 毎日の会話が変わる51のルール』(新潮社)

私も以前、人気番組の司会の代打を務めた時に、ものすごく緊張しました。私以外の出演者は誰もがテレビで見たことのある有名芸能人の方ばかりでしたから。

少し時間があったので早めにスタジオに入って、緊張のシミュレーションを行いました。ニュースしか担当していないアナウンサーが、有名芸能人の前で司会をする。

考えただけで手に汗がにじみました。実際に全然うまくいかなくて、本番ではお腹いっぱいになるほど出演者の方々にいじられたのですが、本番前のシミュレーションがあったからこそ腹を決められたと思います。

アウェイの厳しい視線で自分を見ること、そして、「味方は一人もいないんだ」とはっきりさせることも大切な準備です。

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