コーヒー店の有無が地方の優劣を決める

このように文化威信の序列意識を導入することで、職業威信の序列意識だけでは気が付かなかった、隠れた意識も見えてくるのではないだろうか。

たとえば、保守性が残る規範的な地域は文化威信が低くなる傾向にあり、革新性がある選択的な地域は文化威信が高くなる。また、廃屋が点在している地域は文化威信が低くなり、カフェが建ち並ぶ地域は文化威信が高くなる。あの地域にはコーヒーショップの店舗があり、この地域にはないといったことが文化威信の序列意識を決める。このような序列意識を私たちは持っているのではないだろうか。

写真=iStock.com/martinrlee
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たとえば、過疎地域では、都心で暮らしている者の提案は、いくらか評価してもらえても、同じ過疎地域で暮らしている者の提案は、まったく評価してもらえなかった。むしろ都心の者のように振る舞う者は目障りであり、いかにして排除するかといった行為につながった。

花房尚作『田舎はいやらしい』(光文社新書)

また、過疎地域はそのほとんどを高齢者が占めているため、何をするにも規範的になる傾向があった。過疎地域には余暇施設やレジャー施設がたくさんつくられていて、運動場や体育館、公園やキャンプ場、草スキー場や釣り場、文化会館や会議室、ゲートボールパークやミニゴルフ場などが点在している。

それらの施設は地域活性化の一環としてつくられたわけだが、特殊性や刺激を徹底的に排除していた。過疎地域で認められるのはTVで放送されているようなメインカルチャーであり、アングラやライブハウスといったサブカルチャーは認められないのである。そのため、特殊なことをしていると「とんでもない」といった具合に、すぐに指導が入って止めさせられる。

規範から外れたヤバイモノは徹底的に排除する

たとえば、ゴスロリ系やメイド系のファッションは日本文化として認められていて、フランスの若者にも人気だが、過疎地域の人たちにとっては現在でも異世界の出来事だった。そのような服装をする者は「恥ずかしい者」として認識されて、「止めてくれ」と家族にお願いされるのが常である。

これに対して、都心では、その気になればいくらでも「ちょっとヤバイモノ」や、「ちょっとあぶないモノ」と出会える。それらの特殊さが接触することでサブカルチャーがつくられる。そのようにしてつくられたサブカルチャーは、マスメディアにより過疎地域にも伝えられるが、過疎地域は規範的であるがゆえに、それはマスメディアの中で行われている異世界でしかなかった。そのため、芸術分野に興味を持つ若者は、一刻も早く過疎地域から去りたいといった気持ちが強くなる。

都心に若者が流れていく要因として、職業威信の序列意識だけではなく、文化威信の序列意識についても考慮する必要があるのではないだろうか。

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