10年間の両親の介護で持ち出しした総額は900万円以上

浩一郎さんが続ける。

「それに、今、心配しているのは、妻のほうの親の介護なんです。妻は10歳年下で、まだ50代。自分と同じでひとりっ子です。義父は5年前に他界しましたが、80代の義母は九州の実家で一人暮らしをしています。まだ足腰もしっかりしているし、元気なんですけどね。自分の母親もそうでしたから、油断は禁物。ホント、要介護状態になるときはあっという間でした。

自分の両親のときに、妻には本当に迷惑をかけましたから、義母が要介護状態になれば、やっぱり面倒をみてあげなければと……。ただ、その気持ちはあるんですけど、カラダと気力とお金が続くかどうか。今のうちに呼び寄せておこうかとも考えてみるものの、『田舎暮らししかしたことのないお母さんにはマンション生活はムリ』って妻が言うので、どうしたものかと」

「自分の両親の介護を通じて、後悔しているとすれば、親が認知症になる前、介護が始まる前に、ちゃんとこれからのことを話し合っておけば良かった、準備しておけば良かったということに尽きます。介護費用とかお金のことも含めてね。だから、義母が元気なうちに話をしたいと思っているんですが、コロナ禍が長引いて、2年間、会えずじまいです。

ああ、それから、今度は自分たちの介護や老後のためにお金を貯めておくべきだと痛感しています。子どもには自分と同じような苦労をかけさせたくない。でも、会社に再雇用してもらいましたが、収入が減ったので、なかなか貯められませんね(苦笑)。親の介護費用が後を引いているのもあるし、もともと自分たちがつい使ってしまうのもあるでしょう」

現在、住宅ローンは完済し、子供は独立した。今後の課題は、自分も妻も、より長く働き続けて収入を得ること。そして生活費を切り詰め少しでも老後資金を貯めること。2年後の65歳以降は年金収入があるが、預貯金が雀の涙のため、ゆとりある老後生活を送ることは難しそうだ。また、自分たち夫婦も、いずれ病気や要介護状態になった場合、家計が回るかどうかは未知数だ。浩一郎さんが10年間の両親の介護で持ち出しした総額は少なく見積もっても900万円以上に及ぶ。もし、それが貯金できていれば、資産状況は今とは全然違うものになっていたはずだ。

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認知症が心配な人が多いが、身近な人と話し合っている人は少ない

さて、前掲の浩一郎さんが後悔していることとして挙げた、「親が認知症を発症あるいは要介護状態になる前に事前に話し合っておけば良かった」という点は、介護経験者であれば多くの人が口にする。

それだけ、実際には、話し合っていないケースがほとんどだということだ。

SOMPOホールディングスが全国の40~70代を対象に実施した「認知症に関する意識調査」(2021年9月17日)によると、「自分が認知症になることが不安」(62.1%)、「家族が認知症になることが不安」(57.5%)など、自身や家族が認知症になることに不安を抱いている人がいずれも6割と多くなっている。

その一方で、認知症について身近な人と話をした人のうち、最も多いのが「配偶者と話をした」(33.1%)で、「親と話をした」(18.9%)、「自分の子供と話をした」(12.6%)など、それ以外の家族が少ないことがわかる。

不安ではあるが、健康な時に話し合ってはいないのが大多数ということだ。

しかし、浩一郎さんの事例のように、親の介護や病気が子どもの人生や老後に大きな影響を与えることを知っていれば、ちゃんと話し合っておくべきだということがわかっていただけると思う。