いずれにせよ、ある程度予想していたとはいえ、ベアボック氏の発言に一番びっくりしたのは中国共産党だろう。ベルリンの中国大使館はすぐさま、「われわれが必要としているのは壁を作ることではなく、橋を架けることだ」と反発、けたたましく警鐘を鳴らした。中国側にすれば、せっかく長年かけて培ってきた独中の枢軸が、こんな小娘の生意気な言葉で覆されるなど絶対にあってはならない。
“メルケル派”のメディアも手のひらを返し始めた
そのベアボック氏、正式就任と同時にG7の外相会議に出席し、その翌日からはパリ、ブリュッセル、ワルシャワ、そして、新年明けたらワシントンと、精力的に飛び回っている。そして、それら一部始終を、独メディアが非常に好意的に追う。
風見鶏のマスメディアがベアボック氏にエールを送り始めた理由は、最近、世界で高まりつつある中国批判と無関係ではないだろう。これまで彼らはメルケル前首相に忠実で、中国批判は極力控えていたが、さすがにそろそろ修正が必要だと思い始めている。そこで、ちゃっかりベアボック氏の反中旋風に便乗するつもりだ。そう思って見ると、最近の報道に使われているベアボック氏の写真は、スキャンダルで叩かれていた頃のそれとは打って変わって、どれもこれも気分がスカッとするほど凛々しい。
実はドイツの政界ではここのところ、これまでの親中政策を修正しようという動きが次第に高まっている。しかもそれは緑の党だけでなく、今までメルケル首相の権力の下、中国批判が封じ込められていたCDU内でも同様だ。
ただ、肝心の社民党は、これまでの16年のうちの12年もメルケル政権と連立を組んでいた上、「メルケル政治の継続」を謳い文句に選挙に臨んだため、思い切った政策転換が打ちにくいという問題を抱えている。つまり、今やショルツ首相にしてみれば、ベアボック氏の人気はまさに渡りに船。そういう意味では、ベアボック氏は今、適正な波の上に乗っかっている。
中国資本によるドイツ企業の買収が相次いだが…
さて、ドイツと中国の密接な関係は、すでによく知られている。中国の資本によるドイツ企業の買収も、ここ10年ほどで急速に進行している。
例えば、フランクフルトにあるもう一つの空港、ハーン空港。以前、米軍が空軍基地として使っていたもので、一時はドイツ国の航空母艦とまで言われた。90年の終わりよりアイルランドの格安航空会社ライアン・エアが使用、空港の持ち主は、95年からはラインランド=プファルツ州(82.5%)とヘッセン州(17.5%)だったが、2016年、それを買収しようとしたのが上海のSYT社(Shanghai Yiqian Trading)。交渉はSYT社の全権代表であったチョウ氏が取り仕切った。取引値段は1300万ユーロと言われる。