野中郁次郎氏も重視する「基盤的プロセス」とは
例えば、一般的に言われる「モノづくりの力」である。モノづくりの力は05年に経済産業省が出した「ものづくり国家戦略ビジョン」では以下のように定義されている。
(1)いわゆる技能を用いて既存の製品や生産プロセスを改善・改良する力
(2)既存の技術及び技能を改善・改良して、あるいは新たに組み合わせて新製品・新サービス・新プロセスを作る力
(3)新しい科学理論をベースとした技術や、異分野の知識を融合させ、全く新しい新製品・新サービス・新プロセスを作る力
そして、経済産業省は、これまで、わが国の産業界においては、主に(1)と(2)が効率的かつ効果的に貢献してきた側面が強かったと評価している。
ここに挙げたような組織能力はまさに組織がもっている力であり、組織として培った資産だろう。こうした力によってわが国の製造業は、過去グローバル競争に勝ちぬいてきたのである。
また同様の主張が野中郁次郎氏の「知識創造」の議論にも見られる。野中氏の言う知識創造とは、まさに組織内の濃密なコミュニケーションや信頼関係の上に培われた人と人との繋がりのなかで生じる、知と知の連鎖から価値ある新たな知がつくり出される過程だ。
経済産業省や野中氏だけではなく多くの研究が、こうした組織力が多くの日本の企業(特に製造業)の競争力の源泉であったことを示している。そして、このような組織力は競争相手によって模倣されにくい力であるからこそ、ちゃんと維持する努力をすれば企業の長期的な競争力の基礎となるのである。
もちろん、これらはかなり高度な組織能力または組織力である。そして、当たり前のことだが、ここに示したようなモノづくりの能力や知識創造力などは、組織内のコミュニケーションや働く人の活力、信頼関係などを基盤として成立するものだと考えられる。コミュニケーションや信頼関係の構築などの基本的な組織内機能は、モノづくりや知識創造などの、より高度な組織能力が機能する大前提なのである。