アイデアを形にする以上の価値

ブロックという極めて単純な玩具がなぜ、私たちの社会に多様な形で影響を与えているのか。理由の一つは、ブロックを組み立てるというレゴの遊びの本質が、頭の中に漠然と存在するアイデアを具現化するのに、最適な手段だからだ。

2004年から2016年末まで、事業会社レゴのCEO(最高経営責任者)を務め、現在はレゴ・ブランド・グループのエグゼクティブ・チェアマン(会長)であるヨアン・ヴィー・クヌッドストープ。彼には、レゴブロックの持つ可能性を実感してもらう際に披露する"鉄板"のプレゼンテーションがある。用意するのは、黄色4種類、赤2種類のレゴブロック。たったそれだけだ。

プレゼン冒頭、クヌッドストープは聴衆一人ひとりにこのレゴブロックの入った袋を手渡すと、こう切り出す。

「袋には、形の異なる6つのブロックが入っています。これをすべて使って、アヒルを作ってください。いいですか、あなただけのオリジナルのアヒルですよ。制限時間は60秒。用意、はじめ!」

組み立てるのに一切の制約はない。いきなりブロックによるアヒル作りを命じられた聴衆は一同あっけにとられ、クヌッドストープの指示を聞いて、騒然となる。しかし、「はじめ!」の号令とともに会場は静まり返り、黙々と6個のブロックをいじり始める。

写真=iStock.com/aerogondo
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「人は多様で豊富なアイデアを持っているのです」

その様子は、実に興味深い。

目を輝かせて、あっという間にアヒルを完成させてしまう人。首をかしげ、何度も作っては壊す人。ブロックをじっと見つめて考え込んでしまう人……。参加者は、少しばかりの間、時を忘れて子供のように組み立てに没頭する。そして、あっという間に60秒が過ぎる。

「はい、終了!」

掛け声と同時に、場内にはどよめきが広がる。あちこちで、参加者が組み立てたアヒルを互いに見せ合いながら、自然と会話が始まっていく。

会場はちょっとしたアヒルの品評会となり、にわかに活気づく。クヌッドストープは満足そうな顔を浮かべながら全体を見渡し、頃合いを見計らって口を開く。

「みなさんの作ったアヒルはおそらく、どれ一つ同じ形をしたものはないでしょう。他の人のアヒルは、もしかしたら、あなたにとってはアヒルに見えないかもしれません。でも、どれも立派なアヒルです。それだけ、人は多様で豊富なアイデアを持っているのです」