あの場面ではどうだったと感情が逐一可視化されると、その後のプレーが変わる。試合中に反省点を意識できれば、同じミスをしなくなる。瞬時に思考を切り替えられるようになれば、コンマ数秒の動きが速くなる。

攻守を素早く切り替える「トランジション・バスケット」を目指した日本代表でのプレーにおいても、メンタルトレーニングは効果を発揮した。

「僕が一番成果を得られたと思うのは、トランジション・バスケットの切り替えの部分です。プレーがうまくいかないとかミスをした時に、動きだけじゃなくて感情の切り替えを早くしなくちゃいけない。その点は、メンタルトレーニングやったことでより良くなったと感じました」

「史上初の銀メダル」から得た新しい目標

もともともっていた身体能力を鍛え抜き、どん欲に技術を磨き、メンタルも強化した。17歳にして「天才」と評された男は、東京パラリンピックに向けてストイックに鍛錬を積み、一回りも二回りも自らを進化させた。

その成果は、コート上で表現された。初戦のコロンビア戦でトリプルダブル(15得点、17リバウンド、10アシスト)を達成すると、その勢いはもう誰にも止められなかった。

車いすバスケットボール男子決勝戦・アメリカ-日本。シュートを決める鳥海連志=2021年9月5日、東京・有明アリーナ(写真=時事通信フォト)

決勝戦までの8試合を通して日本代表の誰よりも長くコートに立ち、1試合平均10.5得点、7.0アシスト、10.75リバウンドを記録。スティールの数も全選手中3位と攻守にわたってチームをけん引し、日本代表を史上初の銀メダルに導いた。

東京パラリンピックを経て、鳥海が次のチャレンジの舞台として射程に捉えているのは、海外。すでに「お誘いはたくさんいただいている」状態で、これからじっくりとチームを選んでいくという。

「ヨーロッパのどこかのリーグで、2.5点のプレイヤーとしてどれだけ価値を高められるか、勝負したいですね。ヨーロッパは秋ごろからシーズンが始まるので、可能であれば来年のシーズンからプレーしたいと思っています」

今、鳥海には意識している選手がいる。東京パラリンピック決勝で戦ったアメリカのキャプテンでエースのスティーブ・セリオだ。アメリカで1、2を争う得点力を持つだけでなく司令塔でもあるセリオは、日本との決勝戦で28得点、9アシストを叩き出し、日本に引導を渡した。そのプレーは、鳥海にとって新たな目標となった。

「彼はゲームメイクに長けているし、時間帯によってゲームをどうコントロールしていくかという能力も肌身で感じました。そういうプレーはこれからの僕の課題で、今後、練習に取り組んでいくうえで参考にする選手ですね」

車いすバスケットボールは息の長い選手が多く、今、世界最高の選手のひとりと言われるセリオは34歳。しかも彼は、鳥海よりも障害の程度が軽い3.5点のハイポインターだ。現在22歳、ローポインターの鳥海がアメリカのエースのプレーに近づいた時、日本代表は再びパリで羽ばたく。

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