「良い親」になるためのプログラムで格差は縮められる

——親の考え方にも大きな格差があるのですね。

親の富や高い社会経済的地位が子供の成績にかなり有利に働くのは間違いなく、データでも示されています。とはいえ、社会が早期幼児教育に取り組むことで、すべての子供たちに「機会・チャンスの平等」を与えることができます。私が、全幼児を対象にした「Pre-K」(入園前プログラム)の必要性を主張しているのは、そのためです。

アメリカでは6歳から義務教育が始まりますが、子供が生まれたときから、子供・親向けのプログラムを始めるべきです。良い親になるにはどうすべきかを教えるプログラムが必要です。

(注:アメリカでは、大半の幼稚園児が5歳で入園)

豊かな家庭の子供は成長とともに多くの恩恵を親から受けますが、貧しい家庭の子供にも同じチャンスを与え、機会の格差を縮めるべきです。まず、政府も市民も、人生の宝くじには当たり外れがあるという事実を認めなければなりません。もちろん、日本やアメリカに生まれただけで、「国」という宝くじには当たったことになりますが、国内レベルで比べると当たり外れがあります。

だからこそ、政府が介入し、どの子にも等しいチャンスを与えるべきです。そうすれば、あとは子供の頑張り次第。成功できるかどうかが、どの親の元に生まれたかだけで決まるような社会ではなくなります。バイデン政権が大規模な歳出法案で、全幼児対象の入園前プログラムや子育て支援を打ち出しているのも、そのためです。

(注:3~4歳児の入園前プログラムを盛り込んだ1兆7500億ドルの「ビルド・バック・ベター」<より良い再建>法案は2021年11月19日、米下院を通過)

科学的知見で人生の宝くじは均質化できる

小さな子供を持つ親には人的資本の形成に関わるチャンスが必要です。科学的に証明されていますが、子供の脳は3歳までが最も活発に成長します。人々も、親が幼い子供の教育に関わることがいかに重要かを認識し始めています。

もちろん、「個人主義大国」アメリカでは政府の介入を嫌う人もいるため、(全幼児対象の入園前プログラムなど)早期幼児教育には反発の声もあります。でも、脳回路の多くが幼児のときに発達するという事実が科学的に明らかになっている以上、そのチャンスを逃がすことは、子供の脳の成長における非常に重要な時期を逃すことになるのです。

私には8人の子供がいます。医者は赤ちゃんへのワクチン接種や医学的アドバイスはしてくれますが、子供の脳をどう発達させるか、子供が将来成功するにはどのような育児方法がベストかといったことは教えてくれません。でも、親にはそうした指導が必要です。そうすれば、どの子も人生の宝くじを当てることができます。

写真=iStock.com/StevieS
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社会経済的地位が低い家庭の子供たちは、豊かな親が子供に与えるような恩恵にあずかれません。でも、すべての子供たちが平等に科学的なアドバイスを与えられるようになれば、人生の宝くじの均質化につながります。

妻のダナは2022年4月、『Parent Nation: Unlocking Every Child's Potential, Fulfilling Society's Promise』(『ペアレント・ネーション――あらゆる子供の可能性を引き出し、社会の約束・責任を果たす』仮題)を出版します。彼女は同書の中で、すべての子供たちが公正なチャンスを手にできるよう、全米の親が一丸となって「ペアレント・ネーション」を築こうと呼びかけています。

(注:ペアレント・ネーションとは、親と社会が協働して早期幼児教育に力を入れ、子供たちの繁栄と格差縮小を目指す国家のこと)