臭いは取れず、感染症にかかることも…

私のふだんの仕事の様子を紹介しましょう。まず、欠かせないのは防護ゴーグルと防毒マスクです。強烈な腐敗臭や無数の虫、そして感染症から身を守るため、このふたつは必ず着用します。また、遺体から流れ出た体液や虫の侵入を防ぐため、衣服の上には雨合羽の上着を着用し、手にはゴム手袋、靴はビニールのカバーで覆い、雨合羽とゴム手袋の隙間は養生テープでしっかり塞ぎます。

一方で、下半身に着用するのは作業用のズボンのみです。以前は全身ツナギの防護服を着用していたこともありましたが、現場での作業は真冬でも大汗をかくような重労働ですから、通気性を確保しなければ脱水症状を起こしてしまうのです。

撮影=高江洲敦
特殊清掃の準備に取りかかる筆者。防毒マスクは欠かせない。

強烈な腐敗臭が衣服や体に付着するとなかなか取れませんし、室内には目に見えないさまざまな細菌が繁殖していますから、作業中は手袋を外すたびに入念に手を洗い、作業後は必ず手と顔を消毒します。

入浴も1日に2回行うなど、常に清潔を保つようにしています。しかし、ここまで対策をしていても、ときおり結膜炎になったり、扁桃腺が腫れて高熱が出たりすることがあります。

なかでもつらいのは、股間が妙に痛痒くなること。長時間の作業の途中でトイレに行き、用を足した際に(いくら念入りに手を洗っていても)、むきだしになった陰部に何らかの細菌が付着してしまうのかもしれません。

“住人を食べて”育ったウジムシが床に…

こうして身支度を整えて現場に到着したら、まず行うのはお清めです。少量の塩と酒を部屋に撒いて故人をねぎらうことは、長い間の習慣になっています。

そして、最初にゴミの処理と掃き掃除を行います。現場では、床一面に広がったゴミや、故人の糞便など、実にさまざまなものを踏みつけますが、なかでももっとも多いのが、ハエやウジムシなどの虫の死骸です。

特に厄介なのは、屍肉を食べて育ったウジムシが蛹化したサナギです。誤って踏むと、プチャッという不快な感触が靴の裏から伝わり、全身に悪寒が走ります。このサナギを踏み潰す感触にだけは、いまだに苦手意識が消えません。

ゴミをあらかた片付け終えたら、二酸化塩素を主成分とする特殊な消毒液を部屋のすみずみまで噴霧します。死臭の主な原因は、腐敗の過程で細菌がタンパク質を分解して出す物質です。薬剤を撒くことで菌を死滅させ、臭いの原因を取り除いていきます。

こうして、ようやく本格的な清掃作業に入っていきます。

遺体から流れ出た体液や脂、血液、消化液などは、混ざり合い、盛り上がった状態で表面が乾き、固まります。これをスクレーパーで削り取り、残った汚れはスポンジでていねいに除去するのですが、体液や血液の固まりは表面を破ると強烈な腐敗臭が漏れ出て、ゴーグルをしていても目が痛くなるほどです。

ときには汚物にまみれたトイレや、何年も放置されたカビだらけの台所も清掃します。このようにして、部屋中のあらゆる汚れを取り除いていきます。