ネット広告に既視感を覚えることはないか

このような広告は、「行動ターゲティング広告」と呼ばれ、近年では極めて多くのウェブサイトで採用されている仕組みである。Googleのディスプレイネットワークは、この行動ターゲティング広告において世界最大のプラットフォームを提供している。

直接Googleを使っていなくても、ユーザーがどのような商品を閲覧したか、といった行動履歴がGoogleに送信され蓄積されており、それがGoogle以外のサイトでの広告表示に利用されている、ということになる。たとえば、プレジデントオンラインで表示されたバナー広告と同じ広告が、別のサイトに行った時も表示されるなどは、多くの方が経験されているのではないだろうか。

このように、自分が意識していないところで過去の行動が蓄積され、広告表示がアルゴリズムによって「ターゲティング」されることから、ユーザーから見ると自分の関心に合わせた広告が多く表示される一方で、追いかけられているような薄気味悪さが伴う。このようなユーザーデータの利用には近年プライバシーの観点から批判が強まりつつあり、Google広告もさまざまな形でその批判に「対応」するように変化してきている。

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批判を避け、広告収益を維持する経営戦略

先ほど紹介した、バナー広告の右上のiマークは、ユーザーが広告の素性を知るために設けられた対応策のひとつだ。これまでも、iマークをクリックすることで、その広告の表示理由や広告主の情報を調べたり、その広告の表示を拒否したりすることができた。先述した2021年9月の発表は、広告主の信頼性を確認するこの機能を強化するものだ。

Googleは、2020年4月の発表に基づき、「広告主身元確認プログラム」をスタートさせている。これによって、事前に広告主の身分証明書や事業の実施を証明する書類等の確認・審査を受けた広告主しかディスプレイネットワークに出稿できなくなるという。また、今回の発表により、「広告主ページ」という広告主の情報を集約したページが公開され、同じ広告主が過去にどのような広告を出稿していたか、確認できるようにするという(ただし、実施は米国から順次他の地域に展開するということで、2021年10月現在日本では未実施)。

これらの対応は、一般ユーザーから見れば歓迎すべき方向性といえるだろう。一方で、Googleが継続的に広告収益を上げていくための、したたかな戦略であることも見逃してはならない。

私たちが無料のサービスを利用することと引き換えに、さまざまな「プライバシー」を巨大なプラットフォーム企業に提供し、Googleはそれをアルゴリズムでターゲティングさせることによって多くの収益を得ている。この根本原理は変わらない。

Googleの動きは、このような「プライバシー」をお金に換えるビジネスを、社会的な批判をかわしながら維持・拡大するための戦略的な防衛と言える。換言すれば、Googleは、広告主にも、ユーザーにも、「透明性を高める」手段を提供することで、Google自身が広告の内容に責任を負わずに済むような口実づくりをより強化しているともいえるのだ。