記念すべきワクチン接種の日

翌12月、カリコ氏はワイズマン氏とともに、ペンシルベニア大学でワクチンを接種した。

普段は感情的にならないカリコ氏も、この時は感極まったそうだ。

「接種の準備が整うまでの間、ワイズマン氏とこれまでの研究を振り返って話をしました。目の前には、医療従事者や医師などが並んでいました。隣の部屋で、みな順番に接種をしていたのですが、私たちの接種が終わって外に出ると、『このワクチンの発明者が出てきたぞ』と脳神経外科のトップが言い、何人かが拍手をし始めたのです。そこで私もこれまでの様々な感情がこみあげてきて、涙ぐんでしまいました」

科学者はロックミュージシャンと同じ

そんなカリコ氏だが、それでも彼女の生きる姿勢や考え方、価値観には揺るぎないものがある。

増田ユリヤ『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(ポプラ新書)

「真に称えられるべきは、新型コロナウイルスと最前線で向き合っている医療従事者や、こんな時でも仕事を休めないエッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちです。私はただ研究や実験に没頭してきただけ。好きなことを続けてきただけなのです」

「ワクチン開発によって、自分がこれほどまでに注目されるようになるとは思ってもみませんでしたが、だからと言って、私の何が変わるわけでもない。パンデミックで自分が有名になることと、パンデミックが起こらずに自分が無名のままでいることと、どちらを選ぶかと聞かれたら、迷わず後者を選びます。私は、基礎科学の研究者。mRNAワクチンの技術が他の病気の予防や治療に役立つこと。それこそが、私が願っていることなのです」

「科学者は、生涯歌い続けるロックミュージシャンと同じ。私も命ある限り、研究を続けていきます」

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