むしろ私のように外からやってきた者のほうが、内部にいた人よりも、従来の仕組みを大胆に変えられるという利点があるのです。

一般の職員は、採用されてから定年までの長い期間を走りきるフルマラソンのランナーです。しかし私は、前の走者からたすきを受け継ぎ、一つでも順位をあげてから次の走者にたすきを渡す駅伝競走のランナーだと思っています。任期3年の会長として、自分の区間で私は何をなすべきなのか。会長職を拝命したとき、私は区間走者としての私自身のミッションを次のように設定しました。

一つは、変革を進めるための中期経営計画(2009~11年度)の策定です。年次計画さえしっかりしていれば、中期計画はいらないというのがアサヒビールの名経営者といわれた樋口廣太郎さんの考えでした。樋口さんが社長・会長の時代はアサヒには中期計画はなかった。あの当時、つまり右肩上がりの時代は、それでよかったのだと思います。

しかし、先に述べたように、いまはあらゆる分野に変化が起き、しかも変化の奥行きが深く、スピードも速いという三次元の変化の時代です。私たちは変化に流されることなく、適応していく必要があります。流されることと適応することとは大きく違います。適応するためには、確固たる判断の軸足を持っていなければなりません。

スパイラルの時代こそトップは現場に出よ

右肩上がりの時代であれば、判断基準は常識もしくは経験則でよかった。しかし、いまはスパイラルの時代です。今回は前回の繰り返しではないので、経験を参照することができません。つまり成功体験が役に立たないということです。また年度によって業績が上下するので、定量的な経験則も成り立たない。

そして「平均点思考」が通用しなくなったのもこのごろの特徴です。業界全体がよくなったり悪くなったりするのではなく、たとえば業界全体のパイが1割減るとしたら、業界を構成するすべての企業が売り上げを1割落とすわけではありません。業界全体の趨勢とは別に、売り上げを伸ばす企業もあるのです。すると何年かの間は限界企業から脱落していくことになるでしょう。つまり勝ち組と負け組との二極化現象が進むのです。