「たとえば、欧米の高級ブランドが中国の領土を無視して、Tシャツに勝手なことを描いたりする。それを見た過激な中国人ネットユーザーがSNSで批判して、謝罪に追いこんだりしていますよね。

譚璐美『中国「国恥地図」の謎を解く』(新潮新書)

批判する人たちは、『あいつらは中国のことを全然わかっちゃいないのさ。香港や台湾がどこにあるかも知らないんだから』、『中国市場で儲けているくせに』というのが、口癖になっています。

経済大国になった今こそ、『国恥』である過去の屈辱の歴史を晴らしているのだと感じて、留飲を下げているのでしょう」

その一方では、中国の若者世代は両親や中高年の人から「骨がない」と陰で言われていることも、よく分かっている。外国の高級ブランドをSNSで批判して謝罪に追いこんでも、それはいっときのことで、批判の熱が冷めれば、彼らはまた大好きなナイキの靴を買い、NBAの試合に熱狂しているからだ。

南シナ海の実効支配を続ける中国人の意識

ただ、気になるのは、外国企業を批判するのが中国政府ではなく、もっぱら中国の一般人が自ら進んで世界中の企業活動に目を光らせ、少しでも中国の尊厳を傷つけたとおもう企業を見つけたら攻撃しようと、待ち構えていることだ。

中国政府が南シナ海問題で強硬姿勢を崩さず、着々と軍事拠点化を進める背景には、歴史的に生み出された「空間認識」と「失地意識」が潜在的にある一方、国際的に「弱腰外交」を許さない国民気質によって、激しく突き上げられている面もあるのではないか。

愛国主義に基づく「国恥意識」は、自覚しようとしまいと、中国人の心の奥底に深く根を張る偏った歴史認識であり、トラウマなのだ。

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