アメリカで働く大学教授も信じている
中国で生まれ育ったワン教授自身も、子供の頃、中国の中学校の地理の授業で、南海(南シナ海)は中国領であると教えられ、「(授業中に)物差しを使って南沙諸島と中国大陸の距離を測った記憶がある」と、書いている。
ワン教授が中学生だったのは1980年代頃だろうから、少なくともその時代まで国恥地図を使って教育していたということになる。
私は確認のために、日本の有名大学の中国人教授A氏にも聞いてみた。
「あなたは、中学時代に『九段線』について習いましたか?」
「ええ、習いました。中学でも高校でも習いました」
「では、南シナ海の南沙諸島は、中国の領土だと思いますか?」
すると、教授は少し困った顔になり、小声になった。
「あまり、大っぴらに言えませんが、実は、本心ではそう思っているのです」
教授はそう申し訳なさそうに答えた。
A教授は40代。人柄が誠実で、教養高く、だれからも好かれる研究者だ。それでも子供時代に刷り込まれた価値観は一朝一夕には変えられないという。
子どもたちの脳に刷り込まれた「南沙諸島は中国領」
2、30代の中国人留学生にも聞いてみると、こんなことを言う人がいた。
「中国では、小学校からそう教えられ、テレビや新聞などでも中国のものだと見聞きしてきました。日本に留学してから別の考え方もあるのだと知りましたが、幼い頃から教えこまれたことは、なかなか考えを改められないのですよ」
無論、中国育ちの中国人がすべて「南沙諸島は中国領である」と、信じ切っているわけではないだろう。だが、子供時代にそう教えられたことは、外国へ出ても、いくつになっても、記憶の奥底に残っているし、もう教科書を読まない年齢になっても、国恥地図とあの赤線が頭に入ってしまっているのかもしれない。
だとすればそれは、中国政府が絶えず「国恥」教育を行い、今も繰り返し子供たちの頭脳に刷りこみ続けている成果にほかならない。