海底に作られた、あまりにも都合の良すぎる標識
ところで、ある地図研究者を訪ねた時に、「こんな雑誌もありますよ」と、言って見せてくれたのが『中国国家地理』97号(中国科学院地理科学と資源研究所ほか編、2013年3月号)だった。大判のカラー刷りで、160ページもある政府系の雑誌だ。
表紙には、「海南探秘 中国人の海洋ドリーム」と題して、海南島と西沙諸島、南沙諸島など、1冊丸ごと南シナ海の特集記事が掲載されていた。
ページをめくると、美しいサンゴ礁と熱帯魚のカラー写真がふんだんに盛りこまれている。その中で私は一枚の写真に度肝を抜かれた。
南沙諸島南方に位置するジェームズ礁の海底に、なんと、クリスタル製の三角錐の形をした標識が置かれているのだ。それには、「SOUTHMOST CHINA 二〇〇九年五月一日 中国国家地理」と、刻まれている。
キャプションによれば、2009年に同雑誌社の編集チームがジェームズ礁を取材した際、これを海中に沈めて「中国領の南限」であることの指標として残したのだという。
前述の通り、この暗礁は「島」でも「岩」でもないが、中国とマレーシアが領有を主張し、ブルネイなども同じく主張しているとされることがある。
また「標識」については、当時こんな記事が「読売新聞」に掲載されていた。
中国 海島保護法を制定 海洋権益確保を徹底
中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は26日、離島の管理強化などを定めた「海島保護法」を可決、同法が成立した。来年3月1日に施行する。(略)
新華社電などによると、(中略)政府の許可なく観光活動を行った者には罰金など法的責任を追及するほか、「領海の起点となる標識を破壊、あるいは勝手に動かした者は法に基づいて処罰する」と定めた(2009年12月27日付朝刊)
勝手に標識を設置しておいて、「標識を破壊、動かした者は処罰」とは、あまりに都合が良すぎるではないか。
「貧しいときは我慢し、富んだときに復讐する」
中国の人々は今、「国恥」について、なにを思っているのだろうか。
「中国には『貧しいときは我慢し、富んだときに復讐する』という伝統的な考え方があります。それは今も変わらないのですよ」
と、知り合いの中国人学生が解説してくれた。