老いたる犬に新しい芸を仕込むことはできない

【佐々木】パソコンやスマートフォンのようなデバイスは、目で見ることができて機能もわかりやすいのですが、情報通信テクノロジーが進化すると、やがてデバイスはわたしたちの視界から姿を消し、見えないバックエンドで動くようになるのだと思います。

またAIも「なぜAIはその結論を出したのか」ということが人間には理解しにくいというブラックボックス化、別名「魔術化」と呼ばれるような方向へと進んで、抽象的すぎてますます理解できなくなっていくのでしょう。

このような抽象化した世界を理解するのはたいへんな能力が必要で、ここでも世界は能力の格差が広がり、分断が広がっていくのかもしれません。

ひょっとしたら人類社会の未来は今のような民主主義ではなく、昔の貴族政や寡頭政に回帰していくこともあり得るのでしょうか。

バーツラフ・シュミル(著)、栗木 さつき(翻訳)、熊谷 千寿(翻訳)『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)

【シュミル】最後も懐疑的な回答ですが、私たちの民主主義はこれまでずっと薄っぺらなものであり、貴族政や寡頭政が主導権を握ってきました――イギリスでは何人の首相や高官がイートン校、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学を出たかを考えてみてください。

それにアメリカの政府高官は、ハーバード、イェール、シカゴ、スタンフォードといった大学の卒業生が大半を占めていますし、日本では東大が神のように崇められ、早稲田や京都大学の地位が高いことは、あなたもよくご存じのはずです。

例のごとく、気の滅入るような物言いが多く、恐縮です。ことわざにあるように、老いたる犬に新しい芸を仕込むことはできないのです。

(構成=NHK出版編集部、編集協力=栗木さつき、熊谷千寿)
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