「災害が来れば栄華も終わる」を肌で感じる日本人

【佐々木】ご著書で「日本人の宗教性や精神性が長寿を実現しているのでは」と指摘されていたのにもハッとしました。このようにデータとして数値化されない話が盛り込まれているところも、シュミル先生の本の魅力だと思います。

データ的な考え方は大事ですが、あまりにもそちらに寄ってしまうと日本の独自の精神性が失われるのではないかと危惧する人もいます。このバランスをどうすればよいでしょうか。

【シュミル】あなた自身もきっとあてはまるでしょうが、日本では、形式的な宗教ではなく精神性を重んじる傾向が依然として強いですね。

地震、津波、火山噴火、台風など、幾多の災害がいつ起こってもおかしくない土地柄で、そうした災害が起こるたびに、人の一生ははかないのだと思い知らされます。だからこそ、精神性が重んじられてきたのでしょう。

ただ、ご指摘のとおり、そうした精神性は弱まっているようですね。

【佐々木】日本では2011年に東日本大震災が起き、また今世紀に入ってから水害も多発しており、これが多くの日本人を揺り戻して、おっしゃるような古くからの精神性に回帰しているようにも感じます。

「どんなにお金持ちになって家を建てても、災害が来れば栄華も終わる」と多くの人が感じるようになり、特に最近の若者にはそういう精神性を感じます。

アメリカでは2008年のリーマンショック以降に、大きな家に住むのではなく小さな家に住もうという「タイニーハウスムーブメント」などの運動が生じていると聞きますが、やはり欧米の若者も精神性へと進んでいく傾向があるのでしょうか。

【シュミル】そうした昨今のムーブメントはごく一部にすぎません。例えば「タイニーハウスムーブメント」は実際のところ、必要に迫られて仕方なくおこなった行為を美談に仕立てあげたものです。

住宅のコストを考えれば、1950年代に祖父母が、そして70年~80年代に父母がふつうに実現できていたことも、いまの若者にはとても実現できません。祖父母や父母は、結婚、就職、持ち家をぜんぶ20代で実現していたというのに!

富裕国が急速に高齢化しても乗り越えられる理由

【佐々木】大国の繁栄の長さは昔と比べると短くなるというお話がご著書に出てきますが、日本も20世紀終わりに栄華をきわめたものの、十数年と一瞬でしかありませんでした。

この先の高齢化社会に日本がどうなるのかは、学者も政治家も見通せていません。中国にテクノロジーで追い越され、人口は減り、しかし移民には強い拒否感があります。それでもこの先に日本はまだ発展しうるでしょうか。

【シュミル】高齢化はたしかに問題ではありますが、乗り越えられない障害ではありません。そもそも、すべての富裕国は急速に高齢化しています。それは中国も同じです。

アメリカとカナダは移民を大規模に受け入れているため、この問題はそれほど表面化していませんが、大規模移民によって別の問題が生じています。

幸い、いまでは多様な高齢化の形にも対処できる手法や医療があり、健康寿命も長くなっています。それに、私たちは充分に豊かなのですから、高齢化社会を背負っていくうちに高い生活水準がいくらか落ちたとしても耐えられます。

今後さまざまな変化が起きるのはまちがいないでしょう。変化した社会の形を正確に言い当てることはできませんが、高齢化と人口減少が進行するからといって、経済や知性が壊滅的なまでに退行するわけではありません。