安倍氏の「河野氏の当選を阻む」は歪みそのもの
朝日社説は「帰趨を決めたのが結局は、永田町の中の数合わせであり、安倍前首相ら実力者の意向に左右されたというのでは、岸田氏が当選後のあいさつで力を込めた『生まれ変わった自民党』というには程遠い」とも指摘する。
朝日社説の通りだろう。自民党が生まれ変わるとは思えない。岸田氏は安倍・菅政権を継承するだけだろう。
朝日社説は解説する。
「実際、安倍氏は、今回の総裁選の『陰の主役』といってもいい存在だった。当初、立候補も難しいとみられていた高市氏が、河野氏を上回る議員票を獲得できたのも、安倍氏によるてこ入れがあってこそだ」
「最大派閥の細田派内にとどまらず、自身の首相時代に初当選した若手議員らにも影響力を保つ。自らに批判的な石破茂元幹事長とスクラムを組んだ河野氏の当選を阻むため、決選投票を経ての岸田氏勝利に一役買ったというのが専らの見方だ」
「陰の主役」とは安倍氏を嫌う朝日社説らしさが滲み出ている。しかし前首相の安倍氏の「河野氏の当選を阻む」という行為はいただけない。自民党という組織の権力構造が歪んでいることを示している。
「今回も改革を求める若手らの期待は裏切られた」
9月30日の毎日新聞の社説は「『安倍・菅』路線からの脱却を」との見出しを掲げ、冒頭部分から「論戦では新型コロナウイルス対策の失敗など安倍・菅政治の反省を踏まえ、そこからどのように脱却するかの突っ込んだ議論がなかった」「選出過程でも、最後には派閥力学がものをいった」と総裁選そのものを批判し、問題の党員・党友票と国会議員票の落差についてこう指摘する。
「有権者と距離の近い党員・党友票でトップに立ったのは、世論調査で人気が高かった河野氏だった。一方、国会議員票では岸田氏が多数を占めた。党員票と国会議員票のねじれは、国会議員票の比重が増す仕組みの決選投票でさらに拡大した」
自民党総裁選での党員票と国会議員票はまさしく「ねじれ」そのものである。繰り返すが、総裁選が日本の首相を選ぶ選挙である以上、改革が必要である。
毎日社説も朝日社説と同じく、安倍氏の動きを批判し、次のように指摘する。
「今回も改革を求める若手らの期待は裏切られた」
「裏で影響力を行使するキングメーカーのように振る舞ったのが安倍氏だった」
「決選投票では、1回目に高市早苗前総務相に投票した議員が岸田氏支持に回った。政治信条が近い高市氏を支援した安倍氏が、この流れを作った」
毎日社説は安倍氏を「キングメーカー」とさげすむが、朝日社説の「陰の主役」と並んで言い得て妙である。
毎日社説は「新総裁に選出された岸田氏は『国民の声に耳を澄ます』と語った。問われるのは、選出過程のしがらみにとらわれず国民が求める政策を実行する力量である」とも強調する。沙鴎一歩も「安倍氏ら長老のしがらみにとらわれるな」と主張したい。