原発には頼れず……天然ガス需要増で価格が高騰
発電量を増やそうにも、天候に左右される再生可能エネルギーでそれを実現することなどまず不可能だ。機動力があるのは石炭や石油といった化石燃料を用いる従来型の火力発電だが、EUの執行部局である欧州委員会が今年7月に野心的な温室効果ガスの削減目標を掲げて間もないことから、これもまた政治的に容易な決断ではない。
温室効果ガスを全く出さない原子力という手段もあるが、これはフランスなど極一部の国を除くと、ヨーロッパでは取り得ない手段となる。特にEU最大の経済規模を誇るドイツの場合、メルケル政権の下で脱原発を進めてきたことから、選択肢に入らない。そうなると残された手段はただ一つ、温室効果ガスの排出が少ない天然ガスだけとなる。
天然ガスの価格は原油の価格に連動するが、取引の際の契約の方法が各市場で異なるという特徴がある。そのため各市場で取引される天然ガスの価格には違いが生じるが、世界銀行の統計より三大市場の天然ガス価格を比較すると、米国や日本に比べて欧州の天然ガスの価格が顕著に上昇していることが分かる(図表2)。
米国は世界最大の産油国であるため、副産物である天然ガスを自給自足することができる。そのため、価格の上昇への耐性も強い。日本の場合、長期契約が占める割合が圧倒的であることから、足元の需給要因の影響を受けにくい。しかしスポット契約が大半のヨーロッパの場合、足元の需給要因の影響を受けやすいため、価格が急騰しているのだ。
各市場の連動性が弱いとはいえ、価格の上昇はいつか他の市場にも及ぶことになる。中国もまた欧米に倣い気候変動対策を強化する中で、天然ガスの調達を増やしている。そのため、日本の天然ガス調達コストも上昇を余儀なくされている。日本もまた原発を動かしにくい中で、今年の冬にかけて電力価格が高騰すると予想される。