官邸主導の成功例、熊本地震の初動対応

K9(ケーナイン)。そんな呼び名で霞が関で語られる官邸主導の成功例がある。

史上初めて震度7を連続記録した2016年4月の熊本地震。現地に各府省の幹部が集まって連日会議を開いた。K9は熊本の頭文字Kと、幹部の人数を組み合わせた呼び名だ。

初動対応は多岐にわたる。道路の復旧、避難所の設置、水やガスなど生活インフラの復旧、救援物資の輸送、被災者の健康管理、国から地方への財政援助……。

「K9の下、毎日定例会議を開催し、迅速な意思決定、省庁横断的支援を実践した。今後の災害対応のモデルとなり得る」

内閣府の熊本地震の初動対応に関する検証リポートはこう報告した。

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K9が稼働するきっかけは、首相官邸で事務の官房副長官を務める杉田和博の一声にあった。官僚機構のトップに立つ杉田は地震発生直後、経済産業省官房長だった嶋田隆に、被災地入りして各府省を束ねるチームの事務局長に就くよう指示した。

官房長は省内の総合調整を行うなど、中枢を担う幹部の一人だ。「経産省が官房長を出しているのなら」と、各府省は局長や審議官といった幹部を現地に送った。メンバーの一人は「幹部が顔をつきあわせて毎日話して政策決定がスムーズだった。官邸主導でなければできなかった」と語る。

強い官邸は、平成の政治改革、行政改革がめざした目標であり、第2次安倍政権はその到達点でもあった。

安倍政権下で力を強めた「官邸官僚」

元号が平成に入った1989年に冷戦は終結。国内の経済成長も陰ると、戦後日本を引っ張ってきた官僚主導の政治は、むしろ縦割りのひずみが目立ち始めた。過剰接待など官僚の不祥事も続発。95年の阪神・淡路大震災では、官邸機能の弱さも浮き彫りになった。村山富市首相は「官邸機能の強化は、当面の大きな課題」と危機感をあらわにした。

世論も官僚主導の政策決定に批判を強め、選挙で選ばれた首相のリーダーシップ、官邸機能の強化が叫ばれた。小選挙区制度の導入、経済財政諮問会議の設置など官邸機能を強化した橋本行革、民主党政権での事務次官会議の廃止——。平成の改革の頂に、第2次安倍政権は立っていた。

省益を追って縦割りに陥る官僚を国益に向かわせる狙いも平成の改革にはあった。安倍政権では各府省の官僚の力は弱まる一方、府省から官邸に出向した官僚や府省を退官後に官邸で働く官僚、いわゆる「官邸官僚」たちが力を強めた。