「判決が認めた客観的な事実と向き合ってほしい」

事故で真菜さんと莉子ちゃんを失った松永拓也さん(35)は、判決後の記者会見でこう話した。

「2人の命が戻るわけではないが、前を向くきっかけになる」
「私たちに寄り添ってくれる裁判官の言葉に涙が出た。つらい時間が続いたが、公判に被害者として参加し、遺族の思いを伝えたことで報われた」
「飯塚被告には控訴の権利もあるが、判決が認めた客観的な事実と向き合ってほしい」

拓也さんは初公判後の記者会見でも「(飯塚被告の無罪主張は)ただただ、残念だ。謝るのであれば、罪を認めてほしい。遺族の無念さと向き合っているとは思えない」と話していた。

初公判などの内容は、2020年10月15日付の記事「『母子を死亡させても無罪を主張』そんな“暴走老人”を放置していいのか」に書いた。ぜひ一読いただきたい。

写真=時事通信フォト
事故現場で実況見分に立ち合う旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(中央)=2019年6月13日、東京都豊島区

控訴などを続ければ、判決確定までに長い時間がかかる

なぜ飯塚被告は「車の異常で暴走した」とかたくなに無罪を主張するのか。

飯塚被告が実際に刑務所に収容されるのは、判決後14日以内(9月16日まで)に東京高裁に控訴せず、実刑判決が確定してからだ。事実上、それまでは自由の身なのである。しかも今後、控訴などを続ければ、判決確定までに長い時間がかかり、その間に高齢の飯塚被告が亡くなることも考えられる。その場合、判決は確定されず、罪に対する刑の執行も不可能になる。

一方でこんな見方もできる。事故では飯塚被告もケガをした。90歳という高齢でもある。このため警視庁は「逃亡や証拠隠滅の恐れはない」との判断から飯塚被告の身柄を拘束(逮捕)せずに捜査を進めた。検察の公判請求に当たる起訴も在宅のまま行われた。

結局、飯塚被告は判決が確定するまで拘置所や刑務所などの刑事施設には収容されず、今後、判決が確定しても刑事訴訟法の規定に基づき、高齢や持病などを理由に刑の執行が停止されることがあり得る。病気などやむを得ない事情があるときは、判決の確定後に検察官に対して刑の執行を延期する申し立てができるからだ。