筆者も1999年8月外務省欧亜局長に任ぜられたとき、4人の日本人技術者がキルギスで誘拐され、背景にいた「アフガニスタンに端を発し、タジキスタンからキルギスを経由してウズベキスタンのフェルガナ盆地にいたる反体制ゲリラ」の動きに対し、4人の日本人の命を守るために震え上がったことがある(拙著『北方領土交渉秘録』(新潮文庫p350~p351))。

あれから20年、自爆をいとわないこれら過激集団の根が消え去ったとは到底信じられない。

「ユーラシア大陸大動乱」が始まる

プーチン政権初期において、この地域のイスラム過激集団の動きがチェチェン、ダゲスタンに拡大することを抑え込んだことが自らの地位を安定させたことは、政治家プーチンのDNAとなっており、アフガニスタンを中心にテロ勢力が再活性化することは最も警戒すべき問題となるであろう。

かたや習近平国家主席にとっても、新疆ウイグル自治区の中国化を進めるにあたって、ウイグル過激派の動きに神経をとがらせないはずはない。中国国外を拠点とするウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」、新疆ウイグル自治区の出身者を中心とする「トルキスタン・イスラム党(TIP)」等の先鋭集団の動きが報じられている(8月17日付日本経済新聞、秋田浩之氏による論評)

アメリカによる「一帯」政策のへその緒の位置にあるアフガニスタンの中国とロシアへの丸投げ政策は、国際テロの標的となる苦しみをこの両国に分散負担させる結果を生み出すかもしれない。ユーラシア大陸大動乱の始まりであろう。

日本のアフガン対応に残る3つの疑問

以上の私見は、第三者的に聞こえるだろうか。日本外交を民間の立場で考えようとする者にとっては、許されないことであろう。

パンドラの箱から飛び出した最後の問題は、④「カブール陥落で開かれた日本外交」に対する問題提起である。

自分はこの点について一切の内部情報をもっていない。だが、かつて外務省で仕事をしていた者として、迫りくるカブール陥落を前に、外務省および防衛省の関係者が、自国民や関係アフガン人の安全を守るために、眠ることもできない必死の作業を続けたことを疑わない。

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しかし、それでも疑問が残る。

第一に、米国の8月末撤収を控え、タリバンのアフガン全土の制圧は非常なスピードで進み、米軍は“around-the-clock-effort”(昼夜兼行の努力)で撤退作戦を行い、そのニュースは8月中旬には世界中をかけめぐっていた。