安倍氏は電話で、小泉進次郎氏はメールで、翻意を迫った

総裁選で菅氏を支持する立場だった安倍氏は電話で、小泉進次郎環境相はメールで、菅氏に翻意を迫った。どちらも「総裁選を先送りして衆院解散したら、自民党に決定的な傷がつく」という内容だった。

結局、菅氏は1日午前、「今のような(コロナ感染の)厳しい状況では解散ができる状況ではない。総裁選の日程も党の方で決められると思う」と発言。解散風を自ら封印した。

下村氏の総裁選の出馬を断念させ、二階氏の交代を含む人事断行を表明するまでは強引な奇策も一定の効果があった。しかし、「総裁選先送り解散」は逆効果だった。自民党の谷垣グループの代表世話人である中谷元・元防衛相は9月1日、グループの会合で「衆院の解散とか、自民党の役員人事とかいう話があった、勝手な個人の都合で変更すれば自民党の信頼を失う。自民党が新しい総裁のもと、政策を実行していくべきだ」と言い切った。平然と「新しい総裁」という言葉が出てくるところから、今の党内の空気が分かる。

「30年前の海部首相」に似てきた菅氏

第76代内閣総理大臣・海部俊樹氏(写真=首相官邸ウェブサイトより)

党長老議員は「菅氏は30年前の海部さんになるかもしれない」とつぶやく。

1991年、首相だった海部俊樹氏は、成立を目指していた政治改革関連法案が廃案となったのを受け「重大な決意で臨む」と発言。この発言は、衆院解散を意味すると受け止められた。しかし、党内の猛反発を受けて解散を断念。結果として首相辞任に追い込まれた。

衆院解散は首相の専権事項ではあるが、それを行おうとして不発に終わった場合、首相は政治生命を失いかねない。30年前の海部氏と、今の菅氏が似てきているというのだ。